無事本部へと帰投したレイとイリヤはラムダを監査部へと引き渡した。
「随分無茶をしたようだな」
「申し訳ありません」
上官としてのオメガへの報告を終えたレイは疲れを隠せずにいた。
「クシーへの聴取は大体終えた。やはりキングという男の為に行動していたらしい。アフマル学園に在学中に知り合ったらしい」
「キングは『ショウは元気にしているか』と尋ねました。金髪にブラウンの瞳、身長180cm前後、痩身で軽薄な口調の男に心辺りはありませんか?」
レイは任務中に撮影していた動画をオメガへと提示する。
「……研究所に居たことがある」
「そちらの調査はお願いしてもよろしいでしょうか?」
「こちらで対処しよう」
「では、失礼します」
敬礼と共に立ち去ろうとしたレイをオメガが引き留めた。
「待て、レイ・ヒムロ少佐。三日後にUIA本部への異動を通知する。任命書はこれだ」
「……この時期の異動の理由をお聞かせいただけますか?」
レイは思わず悪態をつきそうになった己を制し、一呼吸おいてから理由を問いただす。
「今回の作戦で得たデータの中から次の犯行のターゲットが特定された。本部のあるArea3が対象となる可能性が高い。今回のアルファとしての貴女の働きが上層部に高く評価されての異動だ。異論はないな?」
異動の理由はもっともらしいものだった。けれどレイには素直に頷くことが出来なかった。
「アイ、サー」
レイは唇を強く噛みしめたまま、振り向くとオメガからの任命を受け取る。
「昇進おめでとう」
顔色を失ったレイはオメガの言葉にも反応することなく、ふらふらとした足取りで自室へと戻った。
今日こそ家に帰ろうと私服に着替え、本部のエントランスを出ると、車に乗ったイリヤがレイを待っていた。
「レイ、送ります」
「すまん」
レイはイリヤの車の助手席に乗り込む。車をゆっくりと発進させたイリヤは、レイの自宅ではなくイリヤの家へと進路を取った。
――異動か……。この街ともお別れだな。そしてこの男……。
ぼうっとした眼差して車窓を眺めていたレイは、しばらくしてようやく車が自宅に向かっていないことに気が付いた。
「私の家はこの道じゃない」
「私の家へ向かっています。約束しましたよね。続きは帰ってからだと」
「そうだな……」
――まあ、これが最後かもしれないと思うと、いやに感傷的になるものだ。私は思ったよりもこの男に魅かれているのかもしれないな。
レイは自嘲した。
いつになく大人しいレイの様子に、イリヤは黙ったまま車を走らせる。
イリヤの借りているフラットに着くと、レイはイリヤに手を引かれるまま部屋へと足を踏み入れた。
男の一人暮らしにしては部屋が片付いている。
「意外と綺麗にしているものだな」
「掃除ロボットもありますから、そんなに汚れませんよ」
「ふうん」
「シャワーを浴びますか?」
「ああ」
イリヤはレイを連れてシャワールームへと移動する。
貪るような口づけを交わしながら互いの服を脱がせ合うと、ふたり一緒にシャワーを浴びた。
「レイ、レイ……」
「っあ、あ、イリヤ……」
レイは全てを忘れてしまいたくて、イリヤにしがみつく。戦いで疲れているのに、妙に高ぶった欲望を素直にイリヤにぶつけた。
イリヤの手が丹念にレイの蕾を解していく。
差し入れられた指は次第に増やされ、くちくちと音を立ててレイの内部を刺激する。
「ぁあ、あっ」
「気持ちよさそうですね」
「っは、あ、あぁ」
レイは涙の滲む目を細め、イリヤに縋る。
いつになく欲望に素直なレイの様子はイリヤを大いに煽った。金色の潤んだ瞳を見つめながら、戦場で昂ぶった欲望を発散させるようにレイへの愛撫の手を早める。
イリヤの手で何度も高みへと昇らされたレイは、ぐったりとしてベッドに運ばれた。
湿った赤毛をそのままに、イリヤはようやくレイの中に欲望を沈めた。
「ぁあああっ!」
野生の獣のように、背後から貫かれたレイは大きな嬌声を上げた。
レイの背に覆いかぶさるイリヤは、大きなグラインドで腰を動かす。その度に上がる嬌声は更にイリヤを煽る。
「っく、あ、あぁ、レイっ!」
「ん、あ、あ、はぁっ」
女性にしては大柄なはずのレイがイリヤに組み敷かれた姿は、更に大きな巨躯の男の体によって小さく見えてしまう。
レイは快感に視界を真っ白に染めながらもシーツにしがみ付いていた。翻弄される嵐の中の救命具のように必死に握りしめられた指は、白く色を変えている。
そんな姿を愛おしく思いつつも、イリヤは限界に達しそうな自分を抑えることができずに、注送の速度を上げた。
「あぁん」
レイの甘い声にあっさりと限界を超え、イリヤは被膜越しに欲望を放つ。
「っくあ、あああ」
レイは内部で脈打つイリヤの剛直を締め付けながら、共に昇りつめる。
レイと繋がったまま、イリヤはレイを抱き込むようにベッドに倒れこんだ。背後からレイを抱きしめたままイリヤは事後の余韻に身を任せていた。
「私はUIA本部へ異動になる」
ぽつりと告げられた人事異動に、イリヤは体を強張らせる。
「お前はどうする?」
――この男はどう答えるのだろう?
レイは金色の瞳に好戦的な光を湛え、面白半分にイリヤを見上げた。
「そんなことくらいで貴女を諦めると思っていたのですか?」
イリヤもまた青い瞳に情熱の炎を宿し、レイの目を見つめる。
ふ、とレイの口角が吊り上る。
「しばらくは遠距離恋愛だな」
「ええ、暇を見つけて会いに行きますよ。レイ、貴女も会いに来てくれますよね?」
「……わかった」
レイの顔に浮かぶ柔らかな笑みを目にしたイリヤは心が満たされるのを感じた。
――今、レイの心の中にいるのは私だ。まあ、長い間離れているつもりもありませんが……。
「では、貴女が私を忘れないように、もう少し協力してもらいましょう」
「ちょっと待て、イリヤ! 今日は、もうっ!」
悲鳴を上げるレイの唇をイリヤが無理やり塞いでしまう。
「疲れているのなら、眠っていても構いませんよ。眠れるものならば、ね」
イリヤは獣の笑みを浮かべて、再びレイに挑みかかった。