月の女神と狩人

月の女神と狩人

6. 回想

王国では新年を迎えると、多くの貴族たちは田舎屋敷(カントリーハウス)から王都にある街屋敷(タウンハウス)へ住まいを移す。ダイアナの両親も社交界の通例に習い、バーリントン領から王都へ旅立ったばかりだ。 いまだ社交界へデビューする年齢に達してい...
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5. ラファエルの恋

ホールを取り囲むように配置された二階の廊下の手すりに寄りかかりながら、ラファエルは夜会を楽しむ客を眺めていた。いつもと同じような人々が集い、いつものように時が過ぎていく。ラファエルは興味もない夜会に参加しなければならない境遇(きょうぐう)を...
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4. 獣人の性

ダイアナには自分の身に何が起こっているのか、わからなかった。 形の良い唇が近づき、ダイアナの目前に迫る。 これまでキスをしたことなど何度もある。ゆっくりとした動作は避けようと思えば避けられるはずだった。けれど、すみれ色の瞳に縫いとめられて、...
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3. 夜会

コンラッドの運転するファントムは、静かに大きな邸宅の車寄せ(ポーチ)に停止した。ドアマンが素早く黒塗りの車に近づき、後部座席のドアを開ける。金髪に碧眼のこれといって特徴のない男性が車を先に降り、後ろから続く女性に手を差し出してエスコートする...
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2. 若きバーリントン伯爵

ダイアナが宝飾品や絵画の紛失に気づいたのはつい一年ほど前のことだった。当然ダイアナはそれらを買い戻すように指示を出した。盗難されたものであることを知らされた人は、手に入れた品を惜しみながらも返してくれる人がほとんどだった。けれど、代々受け継...
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1. はじまり

王都オーモンドの古めかしい街並みを夜の湿った空気が包んでいる。 貴族の邸宅が立ち並ぶ居住区に、静寂を切り開いてけたたましい笛の音が鳴り響いた。大きな靴音を立てて、警官の一団が通りを走っていく。 道のところどころに配置された街灯がふたりの人影...
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