十話 

「サーヤ、おいで」

立ちすくんだまま動こうとしない沙耶に痺れを切らしたユーセフは、沙耶の腕をつかむと強引にベッドの上に引き倒した。

「ユーセフ!」

足首につけられた鎖がしゃらしゃらと音を立てる。

沙耶の着ていたアバヤはいとも簡単に奪われ、着ていた服も次々と脱がされていく。脱がされたパンツが足元で鎖の周りにまとわりついていた。

ユーセフは腰に下げていた短剣を引きぬくと、絡まったパンツを引き裂く。絹を裂く高い音が室内に響き渡る。

沙耶は恐怖に一気に鳥肌が立つのを感じた。

ユーセフはパンツの残骸をベッドの下へと放り投げると、沙耶に向かって捕食者の笑みを浮かべる。

「さあ、次は下着だ」

ユーセフは沙耶の腰のあたりで結ばれた下着の結び目を剣で切り裂くと、あっという間に沙耶は一糸まとわぬ姿にされてしまう。

「ユーセフ……、お願い」

沙耶は少しでも身体を隠そうと、両腕で身体を覆った。

「そんなに美しいのに、どうして隠す?」

先ほどまでの野獣のような荒々しい振る舞いとは対照的に、ユーセフは優雅な仕草で短剣を鞘に仕舞うと、沙耶に向かって蕩けるような笑みを浮かべる。

沙耶はどちらのユーセフが本当の彼なのかわからず混乱する。

「だって、ユーセフが怖い」

「そうか……」

ユーセフは胸をつかれたような痛ましげな表情を一瞬浮かべたが、すぐに表情は傲慢な笑みに塗り替えられる。

「ならば、そんなことを考える余裕が無いようにしてあげよう」

ユーセフは沙耶を組み敷いて、耳元で囁く。

「これを覚えているか?」

沙耶の鼻を嗅ぎ覚えのある匂いがくすぐる。

(これって、たしか媚薬が入っているって言ってた軟膏の匂いじゃ……)

顔色を変えた沙耶にユーセフは声をたてて笑った。

「そうだ、以前使った軟膏だ」

「や、やだ」

沙耶は以前自分が見せた痴態を思い出し、首を振る。

「楽しみだ……」

ユーセフは容器からたっぷりと軟膏をすくうと、沙耶の胸の頂きに塗り付ける。

「ひゃ」

ひんやりとした感触が沙耶を襲う。

ぼんやりとしている間に、脚を強引に開かされ、ユーセフの身体が沙耶の脚のあいだに割り入れられた。

「ここにもあげよう」

覆うもののなくなった脚の付け根を、ユーセフの指がなぞった。

「やめてっ」

「ふふふっ」

ユーセフは強引に沙耶の蕾に指を差し入れた。潤っていないそこは、少し抵抗があったけれど、軟膏の助けを借りてユーセフの指を飲みこんでいく。

「っや、いたっ……」

「大丈夫なはずだ」

冷酷な声が沙耶の叫びを否定する。

「大丈夫じゃない……ッ」

沙耶の抗議はユーセフの指が引き抜かれたことで中断させられた。

「さて、しばらく待ってみようか?」

沙耶にはその笑みが悪魔の笑みに見えた。

ユーセフは組み敷いていた身体を離すと、羽ペンを取り出して来た。

「さて、サーヤが素直になるまでどれくらい楽しませてくれるかな?」

くるくると右手で羽ペンを弄びながら、沙耶の顔を覗き込む。

(あっ、やだ。身体が……熱くなってる気がする)

沙耶は自分の身体の変化に戸惑っていた。きゅっと身体の奥が疼き、胸の先はジンジンと痺れるように熱い。

にやりと笑みを浮かべたユーセフは羽ペンの羽の先で沙耶の胸をなぞった。

「っはあっ」

沙耶は背筋がゾクリと総毛立つ。

沙耶は簡単に彼の愛撫に反応してしまう己の身体を厭わしく思った。そんな沙耶の気持ちとは裏腹に、身体は簡単に彼の前にひれ伏してしまう。

(せめて、心だけでも奪われたくない。だって、ユーセフはわたしのことを好きだって、一度も言ってくれたこと……ない)

沙耶の目じりに涙が滲み始める。

それは快感によるものか、悲しみによるものかも、沙耶にはわからなくなっていた。

ユーセフの操る羽の先が沙耶の身体をなぞっていく。

「っく、やぁ、っふ」

沙耶が身じろぎをするたびに、しゃらしゃらと鎖のこすれあう音が室内に響く。

羽は脚を撫で上げると、秘められた部分へと差し掛かる。

「ひゃうっ」

沙耶の身体がひと際大きくわななき、ユーセフは満足げに目を細めた。

「サーヤ、可愛い」

「やめ、て」

すっかり上がってしまった息をなんとかこらえて、沙耶はユーセフの行為を止めようとする。

「やめてもいいのか? それに今やめて辛いのはサーヤの方だろう?」

(それでも、愛のない行為よりは……いい)

沙耶は理性を保とうと首を横に振った。

ユーセフの操る羽先は、沙耶の蕾を撫で上げた。

「ひゃう、う、あ」

あまりの快感に沙耶の四肢が張りつめる。そのまま快楽の頂点を極めるかと思われた頃、羽は動きを止める。

ユーセフは巧みに沙耶が昇りつめない様に羽を動かし、ときには止める。

(もう、嫌なのに……。それでもユーセフを嫌いになれない)

沙耶の目からあふれた涙は静かにシーツに吸い込まれていった。

「サーヤ、どうする?」

何度も極めそうになる身体をもてあまし、沙耶はぐったりとベッドに身体を預けた。

(もう何も考えられない。ただ、この熱をどうにかしてほしい)

「……おねがい」

沙耶は何を求めているのかも分からず、ただユーセフに縋った。

熱に潤んだ瞳は、焦点を結んでいない。

ユーセフは沙耶の痴態にごくりと唾を飲み込んだ。

 

沙耶を快楽で支配し、二度と逃げないようにその身体に刻みこむための行為のはずが、逆にユーセフの方が痛いほど張りつめている。

羽先の小さな動きにも敏感に反応する沙耶の身体は、ユーセフのことが愛しいと全身で訴えているような気さえする。

ユーセフは改めて沙耶への愛しさが胸にこみ上げてくるのを感じていた。

(もう二度と離しはしない)

ユーセフは沙耶を見失ったときに感じた、恐ろしいまでの喪失感を思い出していた。

まるで自分の半身をもがれたかのように、鋭い痛みが全身を襲った。

ハサンの呼びかけに我に返り、すぐに沙耶を捜索し始めたが、悪い予想ばかりが頭をよぎる。

(もう会えないかと思った)

ヘイダルの犯罪率は低いとはいえ、美しい女性がひとり歩きしているのを放っておいてくれる可能性は低い。

ユーセフはすぐにハサンに命じて陰に控えている護衛に捜索させる。スークの北で沙耶を見かけたという情報を頼りに駆けつけると、必死の形相で走る沙耶の姿があった。

無事な沙耶の姿を目にした途端、ユーセフの胸を安堵と怒りが襲った。それは沙耶が無事であったことによる安堵と、彼女をそんな目に合わせてしまった自分への怒りだった。

(閉じ込めて、二度と外へ出られないように繋いでしまおうか? それとも、時間をかけて徐々に彼女の翼をもいでしまおうか。彼女がわたしなしでは生きていけないように、真綿でそっとくるんで何も見えなくしてしまえばいい)

ユーセフは自分の思考がどんどんと暗い方向へ進んでいくのを理解しつつも、止めることができない。

『嫌、ユーセフ! 助けて!』

沙耶が自分の名を呼んだ瞬間、心を覆っていた暗い闇が一瞬にして消え去る。

(身体を許しても、心までは許してくれないと思っていたサーヤが、自分の名を呼んでいる!!)

ユーセフの心は一気に浮上する。

それからは心配させられた沙耶に自分の苛立ちを思い知らせたくて、かなり意地悪をした自覚はある。同時に沙耶に自分なしではいられないように刻みつけるはずだった。

(それが、この様か……)

ユーセフは沙耶の痴態に翻弄される自分を嘲笑った。

(わたしがサーヤの心を手にすることはできないのかもしれない。それでも、せめて……この身体だけでもわたしのものにする)

ユーセフは服を脱いで張りつめた下半身を解放した。

「サーヤ、脚をもっと開いて」

のしかかりながら、ユーセフが耳元で囁くと、沙耶は素直に言葉に従う。

(早く繋がって、ひとつになりたい。彼女がだれのものなのか、思い知らせてやりたい。これ以上はないほど感じさせて、乱れさせてやりたい。めちゃくちゃにして、泣かせたい)

ユーセフの内部で欲望が荒れ狂う。

(……大事に、幸せにしてやりたい)

最後に胸をよぎった思いに、荒々しく動いてしまいそうになる自分を必死に押さえた。

「サーヤ……わたしの想いを受け取れ」

ピタリと下腹部を密着させ、ゆっくりと沙耶の内部に自身を沈めていく。温かく、蕩けきった内部はユーセフを喜んで迎えた。

失われていたかもしれない温もりを直に感じ、ユーセフは腕の中に沙耶が存在していてくれることを改めて自分の神に感謝した。

「あぁ、あああぁん」

沙耶は苦しそうに眉根を寄せながらも、ようやく与えられた熱に甘い声を上げた。

その苦しそうでありながら、気持ちのよさそうな声にユーセフは思わず身体を伸ばして、沙耶に口づけていた。

もっと沙耶に自分の存在を刻みつけ、更なる快楽を与える為に。

「っは、あ」

(サーヤ、愛している。たとえ君がわたしを愛していなくても……そばにいてくれればいい)

ユーセフは思いの丈を込めて、自分の欲望を一気に突き立てる。

それからは沙耶の熱が移ったかのように、我を忘れて腰を振り、沙耶を責め立てた。

 

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