8. 甘い夜と夜明け

うつ伏せに組み敷かれたレイは、首筋に噛みつかれ声を上げた。

「はぁ」

うっすらと噛み痕が皮膚の上に残る。

その痕を見つめながらイリヤは征服感が満たされるのを感じていた。けれどレイはまだ全てを明け渡してはくれない。

「貴女は背中も美しい」

薄らとした無駄のない引き締まった筋肉がレイの背中を覆っている。

イリヤはレイの腰を高く掲げさせると、強く腰をついた。

「ああっ」

奥まで穿たれ、レイは甘やかな声を漏らす。イリヤの男根を強く締め付け、吐精を促す動きにイリヤは抗い、腰を律動させる。

背後から手を伸ばし、レイの乳房をそっと揉み上げながら、腰は激しい注挿を繰り返す。

レイは巧みなイリヤの手によって引き起こされる快感に抗うすべを持たなかった。

「あっ、あ、ああ、やぁ、くるぅ」

「そういうときは、イクと言うのですよ」

イリヤはレイの耳朶を甘噛みしながら囁いた。

「嫌だぁ、イキたくないっ!」

「嘘でしょう?ほら、貴女の体はこんなに喜んでいるのに」

丁寧な口調を崩さないイリヤにレイは羞恥がこみ上げてくる。

――どうしてお前はそんなに冷静なんだ?私は、もうっ、おかしくなるっ。

「私もイキそうですよ」

「ああぁん」

レイは自分でも信じられないほど甘い声を漏らしながら達した。続いてイリヤも欲望を解き放つ。

イリヤが支えていた手を腰から離すと、レイの体はベッドの上に崩れ落ちた。同時にイリヤの勢いを失った欲望がずるりと抜け落ちる。

イリヤは素早く後始末を終えると、ベッドから起き上がってレイの側を離れた。

レイはイリヤの温もりが遠ざかったことに一抹の寂しさを感じて、体を震わせた。

――どうして?私は彼のことが恋しいのか?はっ、そんな馬鹿な!

体を気だるげに投げ出したまま、レイは目だけでイリヤの背中を追った。立ち去ったと思ったイリヤが濡らしたタオルを手に戻ってくる。

イリヤは無言のままレイの体を清め始めた。レイも黙ったままイリヤの好きなようにさせている。

イリヤは丁寧にレイの体を拭き清めると、レイの体を抱き上げてソファの上へと移動させた。

レイはイリヤの行動を面白がって、彼のしたいようにさせることにした。

イリヤはシーツを取りかえると、再びレイをベッドへと運んだ。

女性としては大柄な部類に入る一七五cmの身長も一九〇cmというイリヤの体にはさほど重くないらしい。

――まあ、軍人ならそれぐらい軽いものか。

綺麗になったシーツの香りを嗅ぎながら、レイは体を丸めて眠りにつく。久々に安らかな眠りが訪れそうな予感に、レイの唇の両端は知らぬ間に持ちあがっていた。

すぐに眠りに落ちたレイの豊かな赤毛を、イリヤは一房手に取ると口づける。レイの髪の毛は本人の気性をそのまま露わしているかのように、奔放にあちこちに跳ねていた。

胎児のように丸まって眠る姿は豹ではなく子猫のようだ。本人の前では言えないが。

イリヤはレイの背中を抱きしめるように横たわると、レイの眠りを遮らぬようゆっくりと体を近付ける。横になったままレイの姿を堪能していると、いつの間にかレイの方からすり寄ってきた。

――少しは私に心を許してくれたのだろうか。

イリヤは無表情な顔を緩めると、レイを抱きしめて眠りについた。

 

 

 

レイは温もりに包まれて目を覚ました。

――温かい。この温もりを手放したくない。

――でも、だめだ。

――私には許されない。心を許す存在を作ってはいけない。いつの間にか自分の元を去っていくのだ。ならば最初から居ない方がいい。父や母からも求められなかった私を求めてくれる人などいない。

レイの閉じられた目からはいつの間にか涙がこぼれていた。

「アルファ、泣いているのですか?」

イリヤから掛けられる優しい言葉はレイの心をじわじわと犯していく。

――だめだ。彼の存在は私を脅かす。近付いてはイケナイ。

レイは涙を振り払うとイリヤの腕から抜け出した。

「さて、まず腹ごしらえだな」

レイは手を上に抜けて伸ばすと背伸びをする。

「アルファ……」

イリヤは置き去りにされた幼子のような不安な顔をしていた。

レイは昨夜の事がなかったかのように振る舞う。冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出すと、一気に半分ほどを飲み干した。

レイは棚を漁ると、見つけた服を身に付けていく。

イリヤは何か話したそうにしていたがレイが取りあわないので、しぶしぶベッドから出ると、出された服に袖を通した。

レーションで朝食を済ませると、レイはイリヤに偵察を命じる。

「倉庫に車がある。本部周辺の状況を見てこい」

レイはそう言い放つと、再びVVMに潜ってしまう。

イリヤは大きなため息をつくと、仕方なく扉から倉庫の方に向かって歩き始めた。イリヤの後姿をVVMの中から見送ったレイは安堵のため息をついた。

――彼と一緒にいると私は非論理的な感情に捕らわれてしまう。彼とはなるべく距離を置いておきたいが、難しいだろうな……。

レイは意識を切り替えると仮想世界へと意識を集中させた。

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