16. 聴取

「それで何をお聞きになりたいのでしょうか?」

イリヤは防音が施された小部屋でデルタ、イプシロンと向かい合っていた。

「イリヤ・高杉(タカスギ)、二十九歳。階級、少尉。UIAに配属されるまでは、UNA(United Nations Forces)の空軍に所属。保持ライセンスは戦車操縦、輸送機操縦、VTOL操縦、戦闘機操縦、爆発物処理、情報処理クラスB。出身地はArea7で間違いないか?」

ブラウンの髪のデルタがイリヤの経歴を読み上げた。

「はい」

示された経歴に間違いはない。イリヤは内容を確認して頷いた。

「ここでのコードネームはファイ、か……」

端末に表示された経歴を見て、デルタは無邪気な顔で笑った。

「どうしてこんな部署に転属になったんだろうね。空軍では物足りなかった?」

「いえ、決してそんなことは。ただ……」

言いよどむイリヤをデルタは満面の笑みで見つめた。

「上官との折り合いが悪く、左遷されたとは言いにくいかなぁ?」

「どうしてそれを……」

イリヤは問いかけようとして無駄なことを聞いたと気付いた。

彼らもまたUIAの局員なのだ。それくらいの情報を集めることなど容易いことだったのだろう。それに加えて、彼らは監査部だ。必要ならばどんな情報も得られる立場にある。

「私は左遷だとは思っておりませんが、そのように見えることは承知しています」

「だよねぇ、空軍のパイロットを情報処理に使おうということ自体、資源(リソース)の無駄だもんねぇ」

けらけらと笑うデルタの姿はとてもUIAの局員には見えない。

「まあ、君という変則的(イレギュラー)な存在は今回の査察ではそれほど問題にはならないだろう」

デルタとは対照的に落ち着いた声でイプシロンが告げた内容にイリヤは少し安堵した。

せっかく自分の能力を生かせそうな場所を再び失うには惜しかったし、気になって仕方のない人もいる。

「ファイ、君には協力をお願いしたいんだ」

「協力?」

イリヤはいぶかしげにデルタの顔を見つめた。

「現時点で相棒となっているラムダについての監視を」

「俺たちだと警戒されるからねぇ。ファイならラムダの側に居ても怪しまれないでしょう?」

「ですが、私は彼に嫌われています」

「うん。アルファを好きな者同士だもんねぇ」

無責任なデルタの言葉にイリヤに苛立ちが募る。

「ならば、別の人の方がいいのでは?」

「この任務は君の適正試験も兼ねている。これくらいこなせないならUIAに在籍することはできない」

イプシロンからの冷静な通告に、イリヤは背筋に寒気が走った。

この任務は内通者を探すためだけではなく、自分の適性をも試す試金石となっているのだということにイリヤはようやく気付く。

イリヤはふたりの前で敬礼を取ると、任務の内容を復唱した。

「UIA、 Section9所属コードネームファイは、同局員ラムダの監視命令を拝命しました」

「ふうん。物わかりがいいね」

「上官命令ですから」

「うん。頑張ってね」

「下がっていい」

対照的なふたりの様子にげんなりしながら、イリヤは小部屋をあとにした。

やはり監査部を相手に緊張していたようで、イリヤの足は自然と休憩室に向かう。

そこには先客がいた。

プラチナブロンドにサファイアブルーの瞳を持つ、総司令官オメガの姿だった。

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