10. レオの初恋

自宅へと戻ったレオは、いささか疲れた体をベッドの上に投げ出し、仰向けになりながら今日の出来事を思い出していた。封印を施すためとはいえ、本人の了解もなく抱いてしまったことをひどく後悔していた。

今まで何人かの女性と付き合った経験はあるが、皆その場限りの遊びと割り切った付き合いばかりだった。レオにとって女性は自分の欲求を叶えてくれるだけの存在でしかなかった。

だが、ラファエラは違う。天翼族の血を封印するためとはいえ、彼女は抱かれることをひどく嫌がっていた。しかも純潔を奪ってしまった上に、子供を孕んでしまった可能性まである。

(責任を取る……、結婚……? だがそうすれば、彼女を手元に置いておく理由ができる……)

いつの間にかラファエラとの結婚を考えている自分に気が付き、レオは驚く。

(馬鹿な! バッティスタが頼んできたから……、それしか方法がないというから……抱いただけだったはずだろう?)

確かにラファエラは美しく、敏感な身体は極上の反応を返していた。封印を施すという目的を忘れて夢中になってしまったことも確かだった。

(相性がいいということなのか……)

初めて彼女に森で会った時、特に美しい訳でもなく平凡な女性だと思っていた。だが、手当を受けるうちに初めて覚えるような安らぎを心地よく感じ、つい唇を奪ってしまった。そのあとの反応も可愛らしくて、ついからかってしまった。

二度目に会ったときは、殻を脱ぎ捨てたように美しくなっていた。夜会に現れた彼女は、その場の男の視線を一身に集めていた。眼鏡を外した彼女は別人のようで、それでも話してみれば、森で出会った可愛らしい少女に変わりないことにホッとした。ふと気付けば、再び口づけを奪ってしまっていた。ラファエラに険しい瞳で睨みつけられると、背中がゾクゾクした。

いつの間にか彼女に心を囚われてしまったことに、レオはようやく気付く。

(ラファエラがほしい)

天翼族の証である翼を見てもその気持ちは変わらなかった。身体だけでなくその心も含めて、すべてを自分のものにしたい。自分だけを見つめさせて、他の誰にも触れさせたくない。

(私はラファエラに恋をしているのか?)

彼女のすべてが欲しいという感情を恋と呼ぶのならばそうだろう。これほどまでにレオの気持ちを捕らえた女性はこれまで存在しなかった。

見目麗しく将来有望なレオにとって、女性とは勝手に近寄ってくる存在だった。レオは口達者ではないし、ある程度関係が深まると、女性の方から別れを切り出されるのが常だった。

『何を考えているのかわからない。私のことが好きじゃないのね』そう口をそろえて去ってしまう。そんなことはない、とそのときは思っていた。だが、去った女性のあとを追うのは自分の矜持が許さなかった。

だが、ラファエラに対する気持ちに気付いた今、彼女たちの言っていた意味がようやく理解できた気がする。

理性で押さえつけられるものではないのだ。

あの、フェルナンディ家の娘だと言うだけでも、想い留まるには十分な理由たりえるはずだった。

だが、実際には彼女が欲しくて、暴れ出しそうな自分がいる。

生まれて初めての恋にレオは自嘲するしかなかった。

(封印のためとはいえ、無理矢理ラファエラを抱いてしまった私を、好きになってくれる可能性などあるのだろうか?)

それでも、諦めることなどできはしない。

彼女を自分の元へ繋ぎとめておく為に、結婚というのはとてもいい口実に思えた。

(許してくれなくてもいい。それでもそばにいてほしい)

レオは己の醜さに、めまいがしそうになる。それでも、ラファエラを諦めようという気は起きなかった。

(私がこれほど醜い生き物だったとは知らなかった。それでも、きっと彼女を手に入れてみせる!)

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