14. 一夜の思い出

「フロル……もしも、もしもだ、結婚前にも関わらず本当に好きな人と愛を交わしたいと言ったら失望するか?」

ナディアは縋る様にフロレンシオを見つめた。

「いいや。失望などしない。だがナディ、それでいいのか?」

ナディアが見つめたフロレンシオの瞳には真剣な光が宿っていた。

「思い出が欲しい。きっと私は後悔するだろう。行動してもしなくても。だとしたら行動して後悔したい」

「わかった。ここの宿を取ってくる。ここで待っていてくれないか?」

「ああ」

フロレンシオは立ち上がると、宿屋の受付へと歩いていく。受付の従業員と二、三言交わして、鍵を受け取って戻ってきた。

ナディアは壊れそうなほど早鐘をうつ心臓を持て余していた。うつむいたまま差し出されたフロレンシオの手を取る。

「やはり恥ずかしいものだな」

「そんなナディも愛らしい」

フロレンシオの言葉に、ナディアは更に顔を赤くした。フロレンシオの手にある鍵は三階の最上階の部屋だった。手を引かれて階段を昇っていく間、ナディアは自分から言い出したことに今更ながら恥ずかしさがこみ上げてくる。

辺境へ戻ればいつ出撃で命を落とす事があっても不思議ではない。ナディアは行動しなかった後悔をしたくなかった。今まで男女の営みについて聞きかじってはいたが、それがどういったものなのか言葉だけでは想像もつかなかった。

階段を昇る一段ごとに緊張で手に汗が浮かぶ。部屋の扉の前に立った時、ナディアの緊張は頂点に達していた。

フロレンシオが余裕のない手つきで部屋の鍵を開け、ナディアを部屋に引き入れるとそのまま扉へ体を押し付けられた。背中に戸が当たり、閉じ込めるようにフロレンシオの手が頭の後ろに回され、そのまま口づけられる。深い口づけにナディアの息は荒くなっていく。

「っは、……ん」

舌を吸われ、ナディアの下腹部にじんとした熱が溜まっていった。

「ナディ、一応確認しておくが、こういうことは初めてだな?」

情欲に燃える瞳でフロレンシオの瞳がナディアの瞳を見つめる。

「ああ」

ナディアが頷くと、フロレンシオは嬉しそうに笑みを浮かべた。

「処女は面倒だと聞いたのだが、いいのか?」

「面倒かもしれないが、初めての男になれることほど光栄なことはないぞ」

再びフロレンシオに口づけを受けたナディアの思考は形になる前に霧散した。

「ん……ふぅ、フロル、ここでは嫌だ」

「わかった」

フロレンシオは決して軽くはないナディアを抱き上げ、ベッドへと恭しくその体を運んだ。横たえられたナディアの体にフロレンシオの体が覆いかぶさる。

着ていた上着を脱がされ、ナディアの素肌にフロレンシオの手が伸び、口は熱い舌によって塞がれた。

「あ、ぁ」

手際良く服を脱がせていくフロレンシオの様子に、女慣れしている雰囲気を感じ取り、ナディアは理不尽だと思いつつもフロレンシオを恨めしく思った。

「ふぁ……あ」

ぴちゃぴちゃと舌が口内を這いまわる音に、ナディアは再び羞恥心を掻き立てられる。その表情を見たフロレンシオはもう一度問いかけた。

「引き返すのならば今のうちだ」

「いやだ、やめないで」

「痛いとおもうが、できるだけ痛くないようにする」

低く掠れた声でフロレンシオがナディアの耳元に囁きかける。ナディアはフロレンシオの首にしがみついた。

下肢のズボンも全てはぎ取られ、全ての服を取り払われたナディアの肢体は細く引き締まり、シミ一つない白い肌がフロレンシオの情欲を掻き立てた。フロレンシオは形の良い双丘に唇を近付けた。頂の付近を焦らすようにフロレンシオの舌が舐め上げる。

「……っく」

フロレンシオの舌が頂を掠めるたびに、ナディアの蕾は芯をもち立ちあがっていく。フロレンシオの舌は胸から首元へ移り、首筋を這いあがり、耳へとたどり着く。軽く耳朶を食まれたナディアは痺れるように走る感覚に体を震わせた。

「はぁっ」

「ナディ、気持ちいいか?」

「わからない。くすぐったいようなびりびりするようなこれが気持ちいいという感覚なのか?」

「ああ、今にもっと良くなる。そのまま感じていろ」

「ナディアって呼んで」

ナディアは熱い吐息を吐きながら、フロレンシオにねだる。

「ナディア?それがナディの名前か?」

「ああ、フロルにはナディアと呼ばれたい」

「わかった、ナディア」

ナディアは自分の名前を呼ばれただけで喜びが湧きあがるのを感じた。もう二度とないこの瞬間を忘れたくない。ナディアは記憶に焼きつけるようにフロレンシオの仕草に見入っていた。

フロレンシオは首筋に舌を這わせながら、手はナディアの感じる場所を探って体中を触れていく。ナディアは自分の体が自分の物ではないような、不思議な気持ちに戸惑う。

「はぁ……あ、……っく」

「声を聞かせて」

フロレンシオの懇願にナディアはあっさりと降伏する。

「フロル、あぁっ、おか……しく、なるっ!」

「ナディア、気持ちがいいはずだ」

「気持ちいい?」

「ああ、言ってごらん?」

フロレンシオの低い声が甘くナディアの耳に響いた。

「あ……、きもち……いぃ」

「綺麗なナディアをもっと見せて」

ナディアは耳元で囁かれるフロレンシオの言葉に体が熱くなる。

「……っあん」

秘所を叢の上から撫でられ、ナディアは思わず声を漏らした。股間から走る熱く痺れるような感覚に、ナディアは思考が白く塗りつぶされていく。

「っや、あ、ああ、だめっ!」

フロレンシオの指が花びらをかき分け、花芽を擦る様に触れるとナディアの思考は白い闇に飲まれた。

びくびくと震えるナディアの体を宥めるように、フロレンシオはナディアが落ち着くまでしっかりと抱きしめていた。

「っはあ……、今のは何?」

ようやく呼吸が落ち着いてきたナディアは、フロレンシオに問いかける。

「快感が極まるとこうなる。ナディアはなかなか筋がいい」

ナディアは羞恥に顔を染めた。

「これで終わり、なのか?」

ナディアの問いかけにフロレンシオはナディアの手を取り自分の欲望を主張する部分へと導いて答えた。

「ここをナディアと繋げて子種を注ぐ」

フロレンシオのあけすけな言葉にナディアは頬を染めた。

「本当に引き返せないぞ」

ナディアは黙って頷いた。

フロレンシオは着ていた服を脱ぎ捨てる。鍛えられた贅肉のない引き締まった体が露わになっていく。ナディアは息をのんでその様子を見守っていた。

時折フロレンシオはナディアの様子を確かめながら、全ての服を取り払うと雄々しく立ち上がった剛直がナディアの前に晒された。

ナディアはその大きさと見た目にひるんでいた。

(本当にアレが入るのか?)

ナディアの動揺を見破ってフロレンシオは笑った。

「心配するな。ちゃんと入る」

再びフロレンシオの手がナディアに触れる。ナディアは緊張にびくりと体を強張らせた。フロレンシオの手はゆっくりと足首を撫で、そのまますうっと足の内側を這いあがっていく。ナディアの体は期待にうち震えた。フロレンシオの指が秘所にたどり着いた時、そこはしとどに濡れていた。

濡れた感触が尻を伝い、ナディアは月の障りかと思わずシーツを確かめる。ただ濡れたシーツが目に入り、ナディアは首をかしげた。

「指を入れるぞ」

宣言通り、フロレンシオの指が叢をかき分けてゆっくりとナディアの内部へと侵入を果たす。ナディアは初めて感じる圧迫感に息を詰めた。

「息を吐くんだ」

苦しそうなナディアの様子を見て取ったフロレンシオが、ナディアに言葉をかける。ナディアはフロレンシオの助言に従って大きく息を吐いた。

その瞬間、フロレンシオの指は更に奥へと進んだ。

「っあ、痛ぅ……」

侵入と同時に感じた痛みに、ナディアはまなじりに涙を滲ませてフロレンシオを見上げた。

「すまない。だがこうしておかないと、後でもっと痛い」

フロレンシオは一旦指を引きぬくと、ベッドサイドの引き出しを探って白い錠剤を取りだした。

「何?」

まだ何かあるのかとナディアは不安げにフロレンシオを見上げる。

「これは子種を殺す薬だ。私の子を孕んでは困るだろう?」

フロレンシオは何とも形容しがたい悲しげな表情で言い捨てた。右手でつまんだ薬をナディアの内部へと押し込む。

「あぁっ!……うぅ」

ナディアは再び襲われた圧迫感と痛みに声を上げた。

(こんなに痛いのか? 斬られた時と同じくらい痛いかもしれない)

フロレンシオは歯を食いしばるナディアの様子に気づき、少しでも痛みを和らげようと唇を重ねた。触れるだけの優しいキスから、次第に深く舌を絡めていく。

ナディアがキスに気を取られている隙に、フロレンシオは剛直を蜜口にあてがった。引き抜いた指と交代に熱くもっと太い物がゆっくりとナディアの中に沈められていく。

「あ……あぁっ、ああああぁー」

突如襲われた、引き裂かれるような痛みにナディアは声を殺すことができずにいた。

「っく。はぁ」

フロレンシオはようやく手にした愛しい人の感触に酔いしれていた。ナディアの痛みを思って、なんとか本能のまま突きあげそうになる自分を制していた。

涙の溢れるナディアの頬に口を寄せ、涙を吸いとる。しょっぱいはずの涙はなぜか甘く感じられる。フロレンシオは唇に舌を這わせて涙を全て舐めとると、悲鳴を漏らすナディアの唇を塞いだ。

ナディアは痛みと、わずかに感じる快感に訳のわからないまま悲鳴を上げる。

「あぁ、ん、痛いぃ……ん」

次第にナディアの内部が自分に馴染むのを待って、フロレンシオは腰をゆっくりと動かし始める。

「あ……あぁ……あっ」

剛直を締め付けられる感触に、フロレンシオは次第に気遣いを忘れ、本能のままに腰を振って快楽の階を昇っていく。ナディアの痛みをこらえる表情もフロレンシオを煽る材料でしかなかった。

ナディアはフロレンシオの熱い奔流に巻き込まれていく。

「すまないっ、ナディアっ、もうっ!あぁっ!」

ナディアの最奥で欲望を弾けさせたフロレンシオは何度か体を震わせた。

ようやく動きを止めたフロレンシオに、ナディアはこれが男女の交わりなのかという感慨を抱かせた。

大きく息をついたナディアの様子をみたフロレンシオは笑った。

「これで終わりだと思っているのか?」

「違うのか?」

「これが男女の交わりだと思われるのは心外だ。次はもっと良くなる」

「まだあるのか?」

素直に驚きを露わにしたナディアの様子に、フロレンシオは愛しさがこみ上げた。

「ナディア、好きだ」

(私もだ、フロル。この心に住まうのはきっとあなただけだ)

「今だけは……フロルの恋人でいさせてほしい」

ナディアの答えにフロレンシオの欲望は急速に回復していく。再び猛々しさを取り戻した剛直に、フロレンシオは自嘲した。

「ああ、ナディアは私の恋人だ」

欲望を吐き出し、余裕を取り戻したフロレンシオは剛直を抜き差しすると同時に、ナディアの花芽に触れた。

「あぁっ!それ、やぁ」

「最初はここで感じていればいい。そのうち中でも気持ち良くなる」

「ひぃ、あ、ああぁん」

次第に混じり始めた快感の声に、フロレンシオも自身の快感を追い始めた。

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