23. 恋人たちのひととき

「ここがナディアの部屋か」

フロレンシオは案内されたナディアの部屋を興味深げに眺めている。

(恥ずかしいからあまり見ないで欲しい……)

ナディアは飾り気のない女性らしくない部屋を恥ずかしく思い、小さくなっていた。

「どうした?」

ナディアのしおらしい様子にフロレンシオが問いかける。

「恥ずかしくて……。あまり女性らしくない部屋だろう?」

「いや、そんなことはないと思う。それより傷はもういいのか?」

「ああ、もう傷は完全に塞がった。あとは少し訓練すれば元通りになる」

「そうか、なら大丈夫かな」

急に妖しい笑みを浮かべたフロレンシオにナディアは戸惑う。

「なにが?」

「もう堂々とナディアに触れてもいいだろう?」

(それは、まあ許嫁になったんだし。でも、あのときはもう二度と会えないと思ったからあんな恥ずかしい事が出来たのであって、今は……やっぱり恥ずかしすぎる)

顔を赤く染めたまま答えないナディアに、フロレンシオは痺れを切らした。

「答えないなら私が勝手に触れるよ」

そう言いながらフロレンシオの腕がナディアに伸びる。ナディアはあっさりとフロレンシオに首の後ろに手を回され、体を引き寄せられた。

そのままフロレンシオが屈んでナディアの唇を塞いだ。

(ああ、フロル……)

久しぶりの感触にナディアは酔いしれた。優しく唇に触れていたフロレンシオの舌がナディアの口の中へ差し入れられる。

「ふぅ、ぁあ」

神経がむき出しになった様な気持ちよさに、ナディアの腰からかくんと力が抜ける。すかさずフロレンシオがナディアの体をすくい上げ、更に口づけを深められる。

「ん……あぁん」

舌を絡め取られ、ナディアの口からは声が漏れた。うっとりと細められたナディアの目にフロレンシオは煽られ、抱きしめていた手を尻へと伸ばす。

お尻に触れられたことで不意に我に返ったナディアはフロレンシオの胸に手をついて抗議した。

「これ以上は駄目だ」

「どうして?これ以上の事だってもうしただろう?」

フロレンシオは不満をあらわにした。

(ようやく結婚の許しまで得たのになぜ今になって拒む?)

「とにかく、今は駄目だ」

(父上が近くにいるのに、こんなこと恥ずかしすぎる!)

ナディアがフロレンシオを押しのけると、しぶしぶ体を離した。

「ナディアは結婚式まで待ちたいのか?」

フロレンシオの言葉にナディアは頷いた。

確かにあと三日で結婚式を挙げるのだ。それまで我慢したほうがいい気がする。

「フロル。お願いだ」

「~~~~わかった。我慢する。でもキスくらいはいいだろう?」

「ああ」

ナディアが答えるとすぐにフロレンシオの顔が覆いかぶさってくる。

「ふぁ、ああぁ、ん」

ナディアの腰が砕けるまで口内を蹂躙した舌は、ようやく離れていった。

「もう、だめだ。これ以上は私の理性が持ちそうにない」

ようやくナディアの体を離したフロレンシオは父の待つマウリシオの寝室へと行ってしまった。取り残されたナディアはキスの感触に、体を繋げた時の事を思い出して、一人で顔を赤くしていたのだった。

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