22. 辺境伯と旧友の再会

「ナディアの父上にご挨拶したい」

「ああ、俺も久しぶりに会いに行こう」

フロレンシオとフェリクスの意見が一致し、ナディアは二人を連れて屋敷へと戻った。あまりに急な展開にナディアはぐったりと疲れていた。

屋敷の前ではルカスが待ち構えている。

「これはフェリクス様、お久しぶりにございます」

「久しいな、ルカス」

「マウリシオ様がお待ちです。どうぞ」

ルカスの案内で一同はマウリシオの寝室へと向かう。

皆が来ることを予期していたのか、マウリシオは起き上がっていた。

「フェリクス!」

「マウリシオ!」

フェリクスとマウリシオは互いに近寄ると、体を抱きしめ再会を確かめ合っていた。

「お前痩せたなぁ」

「お前は相変わらずだ」

顔色の悪かったマウリシオも、旧友との再会に興奮しているのか顔に赤みがさしている。ナディアは再び二人が出会えたことを嬉しそうに見守った。

フロレンシオは二人の様子が落ち着いたところを見計らって、マウリシオの前に進み出た。

「ナディア嬢に婚約者として認めていただきました、フェリクスの次男、フロレンシオです。ベネディート辺境伯には結婚をお許しいただきたく、ご挨拶に参りました」

それまでフェリクスに対する態度とは一変して、マウリシオは厳しい目つきでフロレンシオを見つめている。

「あれ、お前どこかで会った気がするな」

「多分十年ほど前に一度お目にかかったことがあります」

「十年前……ナディアが攫われたときに助けてくれた坊主か!」

マウリシオは当時の事を思い出していた。マウリシオがナディアの元へ駆けつけたときには既に犯人は取り押さえられていた。軽く傷を負った騎士見習いの少年がいた。ナディアは彼にしがみついて離れなかったが、マウリシオの姿を見つけると飛びついてきた。

「そうか……あの時の恩人がフェリクスの息子だったとはな。お前にならばナディアを預けてもよさそうだ。あのときよりは随分とお転婆になってしまったが」

「それは十分に存じております」

フロレンシオの言葉にナディアは頬を染めた。

「それで、結婚式の事なんだが、私も王都を長く離れることはできないし、ここへ駐留している間に上げてほしいとナディアに頼んだら快く了承してくれたのだが、かまわないか?」

フェリクスがマウリシオに問いかける。

「ああ、こんなお転婆娘を貰ってくれるんなら、願ったり叶ったりだ。お前のところの騎士団の世話になったみたいだし、皆を呼んで盛大に祝うとするか」

マウリシオはルカスを呼びつけると、三日後には結婚式を挙げられるように準備をするように言いつけた。

「かしこまりました」

ルカスは嬉しさに飛び上がりそうな勢いで部屋を出ていく。

「これで、心配事が無くなったな」

マウリシオのぽつりとつぶやいた声をナディアだけが聞いていた。

「父上、そろそろお休みになった方がいいのでは?」

「久しぶりにフェリクスに会えたんだ。もう少しくらいいいだろ?」

そういうマウリシオの顔だが疲れが見て取れる。

「では、ベッドに戻ってください。それなら楽にお話もできるでしょう?」

「……わかったよ」

マウリシオは素直にナディアの言葉に従った。ベッドの横に椅子を置いて場所を整えると、ナディアはフロレンシオと共に部屋を出た。

「さて、どうしようか?」

フロレンシオの悪戯っぽい顔に、ナディアはしばしの逡巡のあと口を開いた。

「私の部屋へ来るか?」

「ああ、ぜひ」

フロレンシオは期待に笑みを浮かべた。

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