増えすぎた人類は行き場を失い、種としての限界を迎えつつあった。その中で国連は国としての枠を超え、宇宙へと人類を送り出すことを目的として一致団結した。
手始めとして月への移住を成功させ人類は宇宙へと活動の場を移し始めつつあった。国連は地球を十のエリアに分割し、エリアごとに統治することにした。
それぞれのエリアを治める政府の代表と月のスペースコロニーを治める代表が国連を運営していた。
情報を自在に操る能力の他に軍人としての肉体面での強さも要求されるUIAは、エリートが目指す就職先の一つだ。
高度に情報化された社会はそれに反対する組織を生みだした。地球が西暦を使っていた頃、宗教を理由として争っていたように、年号が宇宙暦へと移行しても相変わらず人類は宗教のみならず、情報化の流れを危惧する集団や、宇宙で生まれた人類を差別する集団など、さまざまな理由で争いを繰り返していた。
国連軍直轄の組織として編成された国連情報局UIA(United nations Intelligence Agency)は人類の発展を脅かすテロ組織の監視を主な目的としている。各エリアを担当する部署はそれぞれ情報戦のスペシャリストが束ねている。
かつて極東と呼ばれた地域の情報を監視するアルファはUIAの中でも秀でた能力を持っている。レイはアルファとしてArea9の情報を把握する部署Section9を束ねていた。
Section9には新人のイリヤ――コードネーム、ファイ――をはじめとして、ミュー、ニュー、クシーなど他の局員たちも存在している。イリヤが着任したのは、先代のファイが任務の重圧から精神を病み、戦線を離脱した補充要員としてだった。
着任の挨拶を受けたレイはファイの容貌に目を見張った。黒髪に青い目という珍しい容姿に、粗削りな顔はハンサムとは言い難いが、人の目を引き付けるものがある。
「ファイ、私はアルファだ。とりあえず、最初はラムダと組んで仕事をしてもらう。一ヶ月後には一人で仕事ができるようになっていなければ、異動してもらう」
レイは淡々と事実を新たなファイに告げた。
レイからみたイリヤの第一印象は「無表情」だった。情報局員としては必要な素質だ。
イリヤは黙って頷くとラムダの居る部屋へと向かった。
オートボット(自動情報周回プログラム)により集められた情報はAI(人工知能)により要不要を判断され、必要な情報は各局員に配布されている。
最終的な判断は情報局の局員が下す。
自立型AIの「サクリファイス」がレイの携帯型モニターに緊急情報を映し出した。
「第二種戦闘状態発令!」
レイはインカムに向かって命令を発した。発令と同時にレイは自分の部屋へと駆け込み、軍服を脱ぎ捨てBDU(Battle Dress Uniform)に身を包む。レイは急いで建物の屋上にある発着場へと走った。
後方支援を担当するミュー以外の、ニュー、クシー、ラムダ、ファイがレイの元へと戦闘用のBDUを身につけ集合する。
発着場には格納庫から引きずり出されたVTOL(Vertical Take-Off and Landing)――垂直離着陸機――が待機していた。
「搭乗!」
VTOLはミューの支援により自動操縦で現場へと向かっている。
VTOL内に設置された椅子に体を固定すると、レイはインカムを通してニュー、クシー、ラムダ、ファイの四人に指示を出した。
「目標は日本の長崎に潜伏中。サクリファイスはテロ組織『赤の翼』に準ずる組織によるテロ活動の可能性が高いと判断した。目的は『赤の翼』に関する情報の収集」
レイの中性的な声と共に、各員のBDUのバイザーに作戦に必要な情報が映し出される。
「何か質問は?」
レイの声にヘルメットに取り付けられたスピーカーから次々と応答が返ってくる。
「特にありません。マム」
「無い」
レイは頷いてインカムのスイッチを切る。
高速で移動するVTOLはすぐに目的地上空へ到達した。高層ビルの屋上に着陸したVTOLからSection9の局員はバイザーに指示された作戦通り、各個に別れて移動を始めた。
テロ組織の一団が潜んでいるという情報のあったビルをSection9が取り囲む。各自が指示された侵入経路の位置についたことを確認したレイは号令をかけた。
「Ready, go!」