39. 決着

ナディアの宣言通り、代官の悪事についての裁判が開廷した。

二人の代官と盗賊の頭が被告席に並んだ。

自分達の無実を証明しようと口を開こうとした代官は、次々と示される証拠にその口を閉じた。

「俺たちにアストーリとカザーレを通りかかる旅人を襲う様に命じたのはこの代官二人です」

ピエトロの証言によって二人の共謀も証明される。

「ピエトロは確かに旅人を多く襲いましたが、人を殺すようなこともなく、子供たちを養うために行っていたことです。量刑を考慮願います」

アウグストがピエトロの減刑を願い出た。

ナディアは判決を言い渡す。

「代官の二人には北の砦での兵役を命ずる。盗みを働いたピエトロは情状酌量の余地ありとして、アストーリの街の自衛団に勤務することを命じる」

ずっとうつむいて判決を聞いていたピエトロは顔を上げた。ピエトロの目がアウグストの目と合った。微笑みかけたアウグストにピエトロは涙をあふれさせた。

これからも皆一緒にいられるのだ。

裁判が閉廷し、領主の屋敷から人々が次々と部屋を出ていく。

ナディアは不正が暴かれたことに胸をなでおろした。

ナディアに裁判を傍聴していたダンテが声をかけた。

「フロレンシオも帰ってきたことだし、そろそろ僕も出発しようと思う。その男に飽きたら、いつでも連絡してね」

ダンテのふざけた口調にフロレンシオが怒りをあらわにする。

「そんな日は来ないから安心して出発してくれ」

「ダンテ、ありがとう。手伝ってくれて助かった」

ナディアはフロレンシオとダンテを見送った。

「まだ終わってないよ」

ダンテが小さくつぶやいた言葉は誰の耳にも入ることなく宙に消えた。

人が少なくなった頃を見計らって、アウグストが近付いてくる。

「アウグスト、お前は私に忠誠を誓えるか?」

「もちろんです。領主様」

「ならば、その働きを持って忠誠を示せ。お前をアストーリの代官に命じよう。親のいない子供たちについては、私が新たに孤児院を設立して対応する。とりあえずはアストーリに建設する予定だから、人の移動が多くなるだろう。特に治安には力を入れてほしい」

「かしこまりました」

アウグストは深く一礼すると、ピエトロと共にアストーリへと帰る為に出発した。

次々と旅立ちを見送って、ナディアは自分の寝室にフロレンシオと共に戻り始めた。ようやく二人きりになると、ナディアはフロレンシオに抱きついた。

「やっと片付いたな」

「ああ」

「フロレンシオのお陰だ。本当にありがとう」

「お礼はナディアでいいぞ」
「その、医者から……安定期に入るまでは……その」

ナディアは医者から告げられた男女の営みの禁止令について上手く説明できずに口ごもった。

「ナディア、側にいられるだけでいい。ナディアがもっと元気になったらいろいろと楽しもう。体を繋げるだけが愛を交わすことではないぞ」

「そうなのか……」

「私もちゃんと妊娠中のやり方について医者から聞いておこう」

フロレンシオのあっけらかんとした物言いに、ナディアは頬を染めて頷いた。

フロレンシオは優しくナディアを抱きしめると口づけを繰り返した。

「……っふぁ……ん」

ナディアもうっとりと口づけに応える。

「フロルっ、ああぁん」

激しい口づけにナディアはすぐに息が切れ、ようやくフロレンシオは口づけをやめた。

「もう、私はフロルがいないと駄目かもしれない」

「私も任務を忘れて、突っ走ってしまった。騎士団にいたら親父にどやされただろうな」

「ふふふっ」

ナディアはフェリクスの怒り顔を想像して笑った。

「新年の王への挨拶には行けそうにないな」

「まあ、妊娠中ということで勘弁してもらおう」

寝室に二人の笑い声が響いた。

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