38. 捕縛

「それで、フロルはどうして戻ってきたんだ?オスバルドと一緒ではなかったのか?」

「いや、……その、おいてきた」

フロレンシオはばつが悪そうに任務を放り出してきたことを告白した。

「フ~ロ~ル~。あれほど気をつけてと言ったのに~」

「とりあえず、一小隊と新しい代官をカザーレへ派遣した。早く合流して、その黒幕をひっとらえて来てくれ」

「わかった。ナディアは大丈夫なのか?」

「病気ではないのだ。あまり心配しなくても大丈夫だ。ルカスやカミラもいるから、代わりに頼む」

「ああ、待っていてくれ」

「ああ、もう一人代官を用意しないといけないのか……」

ナディアが漏らした呟きに、フロレンシオはアストーリの自衛団の団長の姿を思い出した。

「アストーリの代官なら自衛団の団長に任せてみてはどうだろうか?街の為に頑張っていたし、悪いことにはならないと思うのだが?」

「なるほど、それもありだな。だとすれば私もその男に会ってみたい。戻ってくるときに連れて来てくれ」

「ああ。わかった……」

フロレンシオはナディアに口づけをすると、そのままベッドに上がってきた。

「ナディア、愛してる……」

「フロル、私も愛してる」

再び二人は口づけを交わすと、フロレンシオはナディアを抱きかかえてベッドの中で眠りについた。フロレンシオに抱きかかえられたナディアはフロレンシオのぬくもりに包まれて、自分もまどろみ始めた。

 

 

 

フロレンシオはすっきりとした気分で目覚めた。

ナディアに無事を伝える為に不眠不休で移動した疲れがどっと押し寄せたのだろう。腕の中のぬくもりに愛しさがこみ上げ、フロレンシオの体にふつふつと新しくやる気が湧きおこる。

フロレンシオは眠っているナディアの額にキスを落とすと、書置きをしてナディアの寝室を後にした。

廊下に出ると、ちょうどルカスが通りかかる。

「もう一度、アストーリへ行ってくる。それまでナディアを頼む」

「承知しました。旦那様」

フロレンシオは厨房で食事を済ませると、いつもの大剣を背負って乗り換え用の馬と共にカザーレへと出発した。

フロレンシオがカザーレの手前まで移動すると、オスバルドが辺境軍の一小隊と共に野営してフロレンシオを待っていた。

「ようやくのお戻りですか……」

「すまん」

オスバルドの怒りにフロレンシオは素直に謝った。

「ナディアが子供を授かったらしい。さっさと片付けて、ベネットへ帰るぞ」

「そう言うことでしたか。ならば、大目にみましょう」

「それで、カザーレの代官の悪事の証拠は見つかったのか?」

「現在、ジャンパオロが代官所に潜入しています。彼からの連絡待ちになります」

「なるほど。それなら私はその間にアストーリへ行って自衛団の団長を連れてくる。次の代官に彼を据えたらどうかと思うのだが」

「ふうん。案外適材かもしれませんね」

「では、頼んだぞ。証拠がつかめればオスバルドの判断で動けばいい。ナディアからさっさとひっとらえて来いと言われているし」

「わかりました」

フロレンシオはオスバルドに任せてアストーリへと馬を向けた。

あれほどフロレンシオたちを苦しめた雪はもう解け始めていた。ぬかるんだ道を慎重にアストーリへと向かう。

フロレンシオはふと思いついて、アストーリの代官ファビオと野盗の頭であるピエトロもカザーレへ連れて行くことにする。

アストーリへと無事到着したフロレンシオは教会に寄ってピエトロを連れ出した。そのまま代官所へと向かい、自衛団の団長アウグストに引き合わせる。

「ということでアウグスト、お前に代官を引き受ける気があるなら、領主と引き合わせる」

「それは、ぜひお願いしたい」

アウグストは目の色を変えてフロレンシオに頼みこんだ。

「わかった。それからピエトロ、お前にはカザーレの代官がファビオと共犯だったことを証言してほしい」

「……わかった」

ピエトロは頷く。フロレンシオはピエトロの心配を思い出した。

「子供たちの事なら心配いらない。教会で面倒を見てもらえるよう手配してある」

フロレンシオの言葉にピエトロの顔から強張りが解ける。

「アウグスト、ついでにファビオをベネットまで護送するからよろしく頼む」

「お前、しっかりしてんな」

「ふん。アウグストもこれくらいじゃないと代官は務まらないぞ」

「へいへい」

こうして、フロレンシオはファビオを乗せた馬車をアウグストに御させて、カザーレへと向かった。ピエトロも御者台に座っている。

オスバルドと合流すると、ちょうど内偵中のジャンパオロから連絡が入ったという。

「それじゃあ、一働きしてきますか」

フロレンシオは愛用の大剣を振り回しながら、カザーレの代官所へと突入した。ジャンパオロの協力もあり、あっさりと内部への侵入へ成功する。後ろからは小隊を連れたオスバルドが続いた。

逃げ出そうとしていた代官のヴィットーレを無事捕縛すると、辺境軍から歓声が上がった。

ヴィットーレの屋敷から証拠となる金も見つかり、握りつぶされていたフロレンシオからナディアへの連絡の手紙も見つかった。

フロレンシオはカザーレとアストーリの街をジャンパオロに託して、辺境軍の一行は罪人たちを引き連れてベネットへの帰還を果たした。

ナディアが領主の屋敷の前で一行を出迎えていた。具合のよくなったのか、顔色も大分いい。

ナディアの顔を見てフロレンシオはほっと安堵の息を吐いた。

「カザーレの代官ヴィットーレ、アストーリの代官ファビオ、ならびに野盗の頭ピエトロ、お前たちは裁判にかけられるまで牢屋で過ごしてもらう。アストーリの自衛団団長はお前か?」

ナディアの声にアウグストが進み出る。

「アウグストであります!」

「お前も裁判で証言してもらうぞ」

「了解しました!」

アウグストは元気よく答えた。

「開廷は明日、この領主の屋敷にて行われる。皆ご苦労だった、ゆっくりと休め」

ナディアの声にオスバルドを残して兵士たちは砦へと帰っていく。

「ご苦労だったな」

「元気になったら、砦にも遊びに来てくださいね」

「ああ、わかった」

ナディアと兵士たちは軽口をたたきながら別れを交わしていた。

フロレンシオはナディアに近寄ると後ろから抱きついた。

「ただいま、ナディア」

「お帰り、フロル」

ようやく辺境伯の夫は妻の元へと帰って来た。

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