1. はじまり

「Area9、異常なし」

レイは奔放に跳ね上がる赤毛をかきあげ、気だるげに定時報告をAIU(国連情報局)へと送信した。

Area9――東アジア地域――のネットワークを監視していたレイは型通りの報告を済ませると、体を椅子に預ける。

アンティークなインテリアでまとめられた室内はほの暗い照明で照らされ、重厚な雰囲気を放っていた。

アンティークな雰囲気にはそぐわない、最新型のモニターから発せられる青白い光に疲れた目を揉みながら、深く肘つきの椅子に腰を掛けたまま黒い軍服の詰襟を外す。レイの白い喉元が露わになり、妖しい大人の色香を放っていた。豊満な体つきは固い軍服の下で窮屈そうにしている。

レイはキャビネットからオーヘントッシャン――シングルモルト――の瓶を取り出すと、グラスに注ぎ一気に煽った。喉を焼くような熱さが喉元を過ぎ、胃のあたりに浸みこむ。

「ふぅ」

思わず漏れたため息にレイは自分が思ったよりも落ち込んでいることにようやく気が付いた。彼女の心を占めているのは最近部署に配属されたイリヤ少尉の事だった。

――何故あんな男に体を許してしまったのか。

レイは苛立ちをどうすることもできず、継ぎ足したウィスキーを口に含んだ。微かに回り始めたアルコールにふわふわとした酩酊を感じながらレイは立ち上がり、主に仮眠用として使用しているソファへと移動した。

どさりと体をソファの上に投げ出し、再びウィスキーを口にする。

けれど鍛えられた体はそれ以上のアルコールをすぐに分解してしまい、酔いつぶれることなどできはしない。

「はぁ」

レイはふたたびため息をつく。

入室を求めるアラームが部屋に響く。レイはヴィジフォンの画面で訪問者を確認すると、部屋のロックを開けた。

「アルファ、失礼します」

レイの本名を知らないイリヤはレイをコードネームで呼んだ。レイを悩ませている当人、イリヤ・高杉(タカスギ)が長身には似合わぬ俊敏さでレイの前に姿を現した。

「何の用だ?」

レイは不機嫌な様子を隠そうともせずに、レイを頭上から見下ろすイリヤを金色の目で睨みつけた。

粗削りな容貌に短くそろえられた艶やかな黒髪が似合っている。黒髪には珍しい深い青色の瞳は先祖に北アジア――Area7――の血が混じっているかららしい。

「わかっているでしょう?」

イリヤは無表情な顔つきとは裏腹に情欲を湛えた青い瞳をぎらつかせた。

「お前とは寝ない。用事がそれだけなら去れ」

レイが強い口調で言い放つと、イリヤは無表情のままいきなりレイを組み敷いた。

訓練させられた体は咄嗟に足を蹴り上げ、相手の拘束を解こうとするが、力で勝る相手は難なくレイを押さえこんだ。両腕を頭上でまとめ上げられたレイは口での反撃を試みる。

「上官命令だ、放せ!」

「現在は勤務時間外です。それでも上官命令を振りかざしますか?」

イリヤの尤もな言い分にレイは口を閉ざした。

ふたりのもみ合う音だけが室内に響く。

イリヤはレイのすこしはだけられた首元を更に解いていく。力で叶わないと悟ったレイは抵抗を止めた。

微かに口元に笑みを浮かべたイリヤはレイの軍服を次々とはだけさせ、豊かな双丘を露わにした。

「悔しいですか?」

どこか優越感を滲ませた声にレイは唇を強く噛みしめた。

「そんなに強く噛んでは傷ついてしまう」

――そうさせている張本人が何を!

レイは憤りを隠してイリヤの隙を窺った。

イリヤはためらいなく露わになった膨らみに唇を寄せた。絶妙な感触で胸の頂を吸われ、レイは思わず声を上げた。

「ああっ」

自分でも恥ずかしくなるほどの甘い声に、レイは頬を染めた。

「ふふ、やはり胸は弱いようですね」

そう言ったイリヤの声は満足そうな色を含んでいた。イリヤは手を休めることなくレイのタイトスカートの裾を捲り上げ、双丘に向かって進めていく。

「やめろっ」

レイの焦った声にも構わずイリヤの手は次々とレイの軍服を暴き、露わになった肌には所有を示すキスマークが散らされていく。

「アルファ、ちゃんと私を見てください。誰が貴女を抱いているのか」

レイは意地でも目を合わせまいと、イリヤから目を背けた。

強情なレイの態度に業を煮やしたイリヤは下肢をくつろげると、徐にレイの下着を引き摺り下ろし、強引に股を割って体を繋げようとする。

ふと頭上で拘束する腕が緩んだ隙に、レイはイリヤの頬を平手で打った。

バチンと大きな音が静かな室内に響き渡った。イリヤは打たれた頬が赤くなっているにも関わらず、何の感慨も見せずにレイの内部に欲望を侵入させた。

「ああっ、やめっ!」

体の奥底を暴かれる痛みに、レイは思わず叫ぶ。

イリヤはレイと体を繋げたままキスをしようと唇を触れ合わせた。レイはせめてもの抵抗と侵入しようとしたイリヤの舌に噛みついた。

「っつ」

口の端から血を滴らせたイリヤはキスを諦めて、腰を動かすことに専念し始める。逃れられないことを知ったレイは唇を噛みしめて一言も漏らすまいと歯を食いしばった。

パンパンと乾いた腰を打ちつける音が室内に響く。

「う、うっ」

レイは悲鳴を押し殺した。

ふたりが繋がる場所からぐちゃりという水音が混じり始める。濃密な性の匂いが立ち上る。

イリヤはレイの女の匂いに夢中になって腰を振り続けた。

レイは体が勝手に快楽を拾い始めたことに気づいて、焦りを覚え始める。

――嫌だ。声など出すものかっ!

イリヤはレイの体が解れ始めたことに気がついて、口の端を微かに上げた。

「気持ちいいでしょう?」

――ああ、だが口に出して認めるなど、私のプライドが許さない。

怒りに満ちたレイの視線を受け止めたイリヤは更に笑みを深くした。

的確に感じる場所を擦りあげるイリヤの腰使いに、レイの体は勝手に昇り詰める。

「……っあ」

レイの内部が収縮し、達したことを知ったイリヤは我慢していた欲望を解き放つ。

「アルファ、いきますよ」

大きく引き抜いた男性を再び強く打ちこんだイリヤはぶるりと体を震わせた。

「っはぁ」

長い放出を終えたイリヤの体をレイは蹴り飛ばした。

「それで満足か?」

「いいえ、アルファ。貴女の心を手に入れるまで満足などできません」

蹴り飛ばされ、体を壁に打ち付けられたイリヤは身なりを整えながら答えた。

「用が済んだのなら出て行け」

レイの冷たいセリフに堪えた様子もなく、イリヤは笑みを浮かべたままレイに近付く。

「諦めません。貴女の心を手に入れるまでは」

イリヤはじっとレイの瞳を見つめて宣言すると、撤退することを選択した。

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