沙耶は案内された部屋でソファに腰を下ろし、しばしの間考え事に耽った。傍から見ればぼうっとしているようにしか見えないだろう。
王宮は外の気温をまったく感じさせないほど空調が行き届き、涼しくひんやりとしている。沙耶がアバヤを脱ぐとひんやりと肌寒く感じるほどだ。
ここへ来るまでの景色は美しいとしか言いようがなかった。この都市は沿岸部にあり、海も近い。街頭には所々に色鮮やかな花が植えられており、沙耶の目を楽しませてくれた。
こんな事情でなければもっと楽しめただろうと、残念な思いが先に立つ。
ぼんやりと物思いに耽っていると、扉をノックする音が聞こえた。
「どうぞ」
沙耶が答えると、中年の女性がやはりアバヤに身を包んで入ってきた。
「高原沙耶様、ですね」
「はい」
沙耶は流暢な日本語に驚きつつも頷いた。
「わたくし、メイドのラナーと申します。沙耶様のお世話を申し付けられました」
「よろしくお願いします」
とりあえず挨拶をすると、ラナーはすぐに動き始めた。
「まずはハンマームへ参りましょう。旅の汚れを落としませんと」
「ハンマーム?」
「ええ、日本語で言うお風呂ですね」
「お風呂!」
沙耶は風呂と聞いたとたんに気分が上向いてくる。ここは涼しいけれど、飛行機から車に移動する間などはやはり熱く、身体は汗でべたついていた。汗を流せるならありがたいと、ラナーのあとをついていく。
たどり着いた場所は、沙耶が思っていたお風呂とは似て非なる物だった。
「えー! これがお風呂なの?」
沙耶は思わず叫んでいた。
もうもうと立ち込める湯気に視界を奪われながら、ラナーの背中についていく。ラナーは壁にフックが並んでいる場所で立ち止まった。
ラナーがアバヤを脱いだので、沙耶もならって脱ぎ始める。薄いローブのような服を着替えるようにと手渡された。
沙耶は着ていた洋服を脱ぐと薄いローブに着替える。ラナーも似たようなローブに着替えると、小さな個室が並ぶ場所へと案内された。
美しいモザイクタイルの床に腰を下ろすよう指示され、沙耶は黙って従った。
沙耶のそばを離れたラナーが湯桶にお湯を汲んで戻ってくる。彼女はもうひとり、手伝いの女性を連れていた。
「髪を洗わせていただきます」
沙耶がすこし高い場所に横になると、女性が沙耶の髪を洗い始めた。
(こんなことまでしてもらっていいんだろうか?)
女性が頭皮を優しく洗い始めると、その心地よさに沙耶はうっとりと身をゆだねた。シャンプーの甘いネロリのような香りが鼻をくすぐる。
ふと沙耶が気付くと、いつの間にか洗髪が終わっていた。髪を洗ってくれた女性が別の道具一式を持って戻ってくる。
「沙耶様、身体を動かさないで下さいね」
「えっ、何?」
脚を広げたままの形で押さえつけられ、沙耶は驚きに声を上げた。
秘部に泡を塗りつけられ、剃刀を持って近付けてくる。
「や、やだっ!」
沙耶は身体をよじりその手から逃れようとするが、押さえつけられた脚はびくともしない。
「大人しくなさいませ」
ラナーの非情な声が沙耶を叱りつける。
剃刀が触れる恐怖に、沙耶は固まったまま動けなくなる。
抵抗しなくなったのをいいことに、沙耶の叢は全て剃られてしまった。
「どうしてこんなことするの?」
仕事を終えた女性が立ち去ると、沙耶は涙目になりながらラナーを睨んだ。
「あら、この国では普通のことですよ。清潔に保っておかなければいけません」
「そんなぁ……」
がっつりと気力を奪われた沙耶は、その後もラナーのなすがままにマッサージを受ける。
「もうよろしいですよ」
ようやく沙耶が解放された頃には朦朧としつつ、渡された着替えに黙って袖を通し、出された冷たいミントティーで喉を潤した。
(もう、やだ……)
着替えた服が透けていることにも気付かないまま、沙耶は再びアバヤを被った。
部屋へと戻った沙耶は、そのまま疲れてベッドにもぐりこむ。涼しい部屋はあっという間に沙耶を眠りの世界へと連れ去った。
「サーヤ」
沙耶はユーセフの呼びかけに意識を浮上させた。目を開けると、いきなり目の前にユーセフの顔がある。
「ユーセフ……!」
驚く沙耶にユーセフはニヤリと笑って見せる。ほの暗い室内で、ユーセフのブラウンの瞳が色を濃くしていた。
沙耶は起き上がろうとして、身体が動かせないことに気付いた。
「どうしたの?」
「こんな夜更けに忍んで来るなんて、目的は決まっているだろう?」
「やめ……」
拒絶の言葉はユーセフの唇に吸い取られる。
(もう、こればっかり!)
こみ上げた怒りに、沙耶はユーセフの目を睨みつけながら唇を開かないように食いしばる。
「なるほど……」
ユーセフは器用に片方の眉を上げると、沙耶の腕をつかんだ。両方の腕を捕えられ、頭上でひとまとめにつかまれる。
ユーセフはどこからか取り出した長い布で沙耶の両手を縛ると、ベッドヘッドに括り付けてしまう。
「ユーセフ!! やめて!!」
「サーヤの口から『いい』という返事以外は聞きたくない」
両腕を拘束された沙耶は、足をバタつかせて何とか抵抗しようとする。ユーセフは蹴り上げようとした沙耶の脚をつかむと、そちらも布で縛り上げてしまった。
(これじゃレイプじゃない!)
「いや、やだ……」
にじむ涙をどうすることもできず、沙耶は首を振った。
「サーヤ、泣くな」
ユーセフは沙耶の目尻に溜まった涙をぬぐった。
「じゃあ、やめて」
「沙耶がわたしを欲しがってくれればやめてあげよう」
「そんなの、詭弁(きべん)よ」
「そうかもしれないな」
ユーセフは苦笑すると、沙耶の服に手をかけた。薄い素材のワンピースから透けて見える沙耶の肌に、ユーセフは口が渇き、ごくりと唾を飲み込んだ。
「サーヤ……、ハビブティ」
ユーセフは沙耶の縛り上げた足に口づけを落とした。わざと音を立てながら、次第に上へと位置をずらしていく。
「は、ぁ……」
沙耶は思わず漏れた声に悔しそうに顔をゆがめた。
ユーセフはその様子に笑みを深くすると、愛撫を再開する。口づけと共にユーセフが指でそっと肌の上をなぞると、沙耶はくすぐったさに身体を震わせた。
最初はくすぐったく感じていた沙耶だったが、次第に息が上がり始める。
(どうして?)
ユーセフが触れた部分が熱を持って、自分を翻弄しはじめる。
「っあ」
湧き上がる快感に沙耶は我慢できずに、声を漏らしてしまう。そんな自分が嫌で、沙耶はさらに涙をにじませた。
手足の自由を奪われ、少しずつ理性が侵食されていく。
ユーセフの手は足から腰へと移ろうとしていた。着ていたワンピースは取り払われ、下肢が露わになる。
昼間に着替えた際、沙耶はラナーに下着が欲しいと頼んだが、与えられたのは着物を着るときに付けるような裾よけだけだった。
あっさりと下着を肌蹴られ、沙耶はなす術なく暴かれていく。つるりと剃られてしまった叢がユーセフの前に晒される。
「ふふっ。次はわたしが剃ってやろう」
沙耶は恥ずかしさに目をつぶった。
ユーセフの手はさらに上へと伸び、胸の頂に差し掛かった。くすぐるような手つきに、沙耶は身体が反応してしまうことを止められない。
「っは、……やぁ」
「違うだろう。サーヤ?」
ユーセフはどこまで沙耶の理性が保てるのかを試すように、執拗に触れる。
「ぁああッ」
突然胸の頂を摘ままれた沙耶は、腰をびくりと跳ねさせた。
背筋を快感が駆け上がる。
そのまま快楽の頂点へと押し上げられるかと思った瞬間、ユーセフの手が沙耶の肌を離れてしまう。
「はぁっ、はぁっ」
呼気を荒げる沙耶とは対照的に、ユーセフは涼しい顔をしているように沙耶には思えた。
しばらくするとユーセフの手は再び動き始める。彼の手はゆっくりと脇腹をなぞり、首筋に触れていく。
胸の先端を吸われ、沙耶は全身を強張らせた。
「……ッ」
いつの間にかユーセフの指が秘所に伸びている。ゆるりとその部分を撫でられ、沙耶は首を振った。
「ゆーせふ、……やめて」
(もう、いや……。なにも考えられない)
身体はユーセフが与える快楽を受け入れ、燃え上がる。けれどそれとは対照的に沙耶の心の一部は凍りついていく。
「サーヤ、わたしが欲しいか?」
「……やぁ」
「わたしが聞きたいのは『はい』だけだ」
ユーセフのいかつい指が沙耶の内部へと侵入する。
「ああぁっ!」
「サーヤ、どうする?」
(いや!)
沙耶は意志を振るい起こし、ユーセフの目を睨みつけた。