七話 

沙耶は案内された部屋でソファに腰を下ろし、しばしの間考え事に耽った。傍から見ればぼうっとしているようにしか見えないだろう。

王宮は外の気温をまったく感じさせないほど空調が行き届き、涼しくひんやりとしている。沙耶がアバヤを脱ぐとひんやりと肌寒く感じるほどだ。

ここへ来るまでの景色は美しいとしか言いようがなかった。この都市は沿岸部にあり、海も近い。街頭には所々に色鮮やかな花が植えられており、沙耶の目を楽しませてくれた。

こんな事情でなければもっと楽しめただろうと、残念な思いが先に立つ。

ぼんやりと物思いに耽っていると、扉をノックする音が聞こえた。

「どうぞ」

沙耶が答えると、中年の女性がやはりアバヤに身を包んで入ってきた。

「高原沙耶様、ですね」

「はい」

沙耶は流暢な日本語に驚きつつも頷いた。

「わたくし、メイドのラナーと申します。沙耶様のお世話を申し付けられました」

「よろしくお願いします」

とりあえず挨拶をすると、ラナーはすぐに動き始めた。

「まずはハンマームへ参りましょう。旅の汚れを落としませんと」

「ハンマーム?」

「ええ、日本語で言うお風呂ですね」

「お風呂!」

沙耶は風呂と聞いたとたんに気分が上向いてくる。ここは涼しいけれど、飛行機から車に移動する間などはやはり熱く、身体は汗でべたついていた。汗を流せるならありがたいと、ラナーのあとをついていく。

たどり着いた場所は、沙耶が思っていたお風呂とは似て非なる物だった。

「えー! これがお風呂なの?」

沙耶は思わず叫んでいた。

もうもうと立ち込める湯気に視界を奪われながら、ラナーの背中についていく。ラナーは壁にフックが並んでいる場所で立ち止まった。

ラナーがアバヤを脱いだので、沙耶もならって脱ぎ始める。薄いローブのような服を着替えるようにと手渡された。

沙耶は着ていた洋服を脱ぐと薄いローブに着替える。ラナーも似たようなローブに着替えると、小さな個室が並ぶ場所へと案内された。

美しいモザイクタイルの床に腰を下ろすよう指示され、沙耶は黙って従った。

沙耶のそばを離れたラナーが湯桶にお湯を汲んで戻ってくる。彼女はもうひとり、手伝いの女性を連れていた。

「髪を洗わせていただきます」

沙耶がすこし高い場所に横になると、女性が沙耶の髪を洗い始めた。

(こんなことまでしてもらっていいんだろうか?)

女性が頭皮を優しく洗い始めると、その心地よさに沙耶はうっとりと身をゆだねた。シャンプーの甘いネロリのような香りが鼻をくすぐる。

ふと沙耶が気付くと、いつの間にか洗髪が終わっていた。髪を洗ってくれた女性が別の道具一式を持って戻ってくる。

「沙耶様、身体を動かさないで下さいね」

「えっ、何?」

脚を広げたままの形で押さえつけられ、沙耶は驚きに声を上げた。

秘部に泡を塗りつけられ、剃刀を持って近付けてくる。

「や、やだっ!」

沙耶は身体をよじりその手から逃れようとするが、押さえつけられた脚はびくともしない。

「大人しくなさいませ」

ラナーの非情な声が沙耶を叱りつける。

剃刀が触れる恐怖に、沙耶は固まったまま動けなくなる。

抵抗しなくなったのをいいことに、沙耶の叢は全て剃られてしまった。

「どうしてこんなことするの?」

仕事を終えた女性が立ち去ると、沙耶は涙目になりながらラナーを睨んだ。

「あら、この国では普通のことですよ。清潔に保っておかなければいけません」

「そんなぁ……」

がっつりと気力を奪われた沙耶は、その後もラナーのなすがままにマッサージを受ける。

「もうよろしいですよ」

ようやく沙耶が解放された頃には朦朧としつつ、渡された着替えに黙って袖を通し、出された冷たいミントティーで喉を潤した。

(もう、やだ……)

着替えた服が透けていることにも気付かないまま、沙耶は再びアバヤを被った。

部屋へと戻った沙耶は、そのまま疲れてベッドにもぐりこむ。涼しい部屋はあっという間に沙耶を眠りの世界へと連れ去った。

 

「サーヤ」

沙耶はユーセフの呼びかけに意識を浮上させた。目を開けると、いきなり目の前にユーセフの顔がある。

「ユーセフ……!」

驚く沙耶にユーセフはニヤリと笑って見せる。ほの暗い室内で、ユーセフのブラウンの瞳が色を濃くしていた。

沙耶は起き上がろうとして、身体が動かせないことに気付いた。

「どうしたの?」

「こんな夜更けに忍んで来るなんて、目的は決まっているだろう?」

「やめ……」

拒絶の言葉はユーセフの唇に吸い取られる。

(もう、こればっかり!)

こみ上げた怒りに、沙耶はユーセフの目を睨みつけながら唇を開かないように食いしばる。

「なるほど……」

ユーセフは器用に片方の眉を上げると、沙耶の腕をつかんだ。両方の腕を捕えられ、頭上でひとまとめにつかまれる。

ユーセフはどこからか取り出した長い布で沙耶の両手を縛ると、ベッドヘッドに括り付けてしまう。

「ユーセフ!! やめて!!」

「サーヤの口から『いい』という返事以外は聞きたくない」

両腕を拘束された沙耶は、足をバタつかせて何とか抵抗しようとする。ユーセフは蹴り上げようとした沙耶の脚をつかむと、そちらも布で縛り上げてしまった。

(これじゃレイプじゃない!)

「いや、やだ……」

にじむ涙をどうすることもできず、沙耶は首を振った。

「サーヤ、泣くな」

ユーセフは沙耶の目尻に溜まった涙をぬぐった。

「じゃあ、やめて」

「沙耶がわたしを欲しがってくれればやめてあげよう」

「そんなの、詭弁(きべん)よ」

「そうかもしれないな」

ユーセフは苦笑すると、沙耶の服に手をかけた。薄い素材のワンピースから透けて見える沙耶の肌に、ユーセフは口が渇き、ごくりと唾を飲み込んだ。

「サーヤ……、ハビブティ」

ユーセフは沙耶の縛り上げた足に口づけを落とした。わざと音を立てながら、次第に上へと位置をずらしていく。

「は、ぁ……」

沙耶は思わず漏れた声に悔しそうに顔をゆがめた。

ユーセフはその様子に笑みを深くすると、愛撫を再開する。口づけと共にユーセフが指でそっと肌の上をなぞると、沙耶はくすぐったさに身体を震わせた。

最初はくすぐったく感じていた沙耶だったが、次第に息が上がり始める。

(どうして?)

ユーセフが触れた部分が熱を持って、自分を翻弄しはじめる。

「っあ」

湧き上がる快感に沙耶は我慢できずに、声を漏らしてしまう。そんな自分が嫌で、沙耶はさらに涙をにじませた。

手足の自由を奪われ、少しずつ理性が侵食されていく。

ユーセフの手は足から腰へと移ろうとしていた。着ていたワンピースは取り払われ、下肢が露わになる。

昼間に着替えた際、沙耶はラナーに下着が欲しいと頼んだが、与えられたのは着物を着るときに付けるような裾よけだけだった。

あっさりと下着を肌蹴られ、沙耶はなす術なく暴かれていく。つるりと剃られてしまった叢がユーセフの前に晒される。

「ふふっ。次はわたしが剃ってやろう」

沙耶は恥ずかしさに目をつぶった。

ユーセフの手はさらに上へと伸び、胸の頂に差し掛かった。くすぐるような手つきに、沙耶は身体が反応してしまうことを止められない。

「っは、……やぁ」

「違うだろう。サーヤ?」

ユーセフはどこまで沙耶の理性が保てるのかを試すように、執拗に触れる。

「ぁああッ」

突然胸の頂を摘ままれた沙耶は、腰をびくりと跳ねさせた。

背筋を快感が駆け上がる。

そのまま快楽の頂点へと押し上げられるかと思った瞬間、ユーセフの手が沙耶の肌を離れてしまう。

「はぁっ、はぁっ」

呼気を荒げる沙耶とは対照的に、ユーセフは涼しい顔をしているように沙耶には思えた。

しばらくするとユーセフの手は再び動き始める。彼の手はゆっくりと脇腹をなぞり、首筋に触れていく。

胸の先端を吸われ、沙耶は全身を強張らせた。

「……ッ」

いつの間にかユーセフの指が秘所に伸びている。ゆるりとその部分を撫でられ、沙耶は首を振った。

「ゆーせふ、……やめて」

(もう、いや……。なにも考えられない)

身体はユーセフが与える快楽を受け入れ、燃え上がる。けれどそれとは対照的に沙耶の心の一部は凍りついていく。

「サーヤ、わたしが欲しいか?」

「……やぁ」

「わたしが聞きたいのは『はい』だけだ」

ユーセフのいかつい指が沙耶の内部へと侵入する。

「ああぁっ!」

「サーヤ、どうする?」

(いや!)

沙耶は意志を振るい起こし、ユーセフの目を睨みつけた。

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