7. 甘い一夜

ふとレイの脳裏にこれまでの情事がよぎる。大半はオメガとのSEXだ。自分の上司に当たるオメガは、事あるごとにレイの体を求めてくる。

軍の研究施設で育ったレイには、両親の記憶がない。両親共に研究者だと聞かされていたが、名前も顔も知らないし、知ろうともしなかった。

オメガはレイよりも数年前に生み出され、研究所で育てられていた。レイと同じく遺伝子操作を受けたオメガとは、レイが初潮を迎え妊娠可能な状態となってすぐに、研究のために体を重ねることを研究者たちに要求された。

教科書通りの愛撫のあと挿入され、処女を失ったレイは何の快感も得ないまま初めての経験を終えた。それ以来一年以上にわたって妊娠確率の高い日を選んで実験は継続されたが、一向に妊娠しないレイにようやく上層部はレイとオメガの交配実験の中止を指示した。

けれど実験が終わってもレイがSection9に配属が決定されるまで、オメガは執拗にレイを求め続けた。

「考え事ですか?」

イリヤの声にレイの意識は引き戻された。

「すぐに私の事以外考えられなくして差し上げます」

丁寧な口調とは裏腹に、レイの青い瞳には情欲の炎がぎらついていた。

イリヤの愛撫の標的は足へと移っていた。

手と同様に足の指を口に含まれ、レイは狼狽えた。

「やめろ、汚い」

「いいえ、貴女の体はすべてが美しく、甘い」

レイが聞いたこともない台詞を恥ずかしげもなく口にするイリヤに、レイは頬に血が上るのを抑えきれない。

「黙れ」

「嫌です。このつま先も」

イリヤは足の指にキスを落とす。

「引き締まったふくらはぎも」

イリヤは手をレイのふくらはぎに添わせる。

「くびれた腰も」

イリヤは次々と手を這わせ、口づけを落としていく。

「豊かな胸も」

レイはその度に体を震わせた。

「細い指先も、全て美しい」

そう言ってイリヤは熱に浮かされたようにレイの体を弄った。レイは初めて感じる快感にどうしたらいいか分からず、ただソファの布地を強く握りしめた。

「っはぁ」

高まる体の熱をどうすることもできず、レイは熱いため息をこぼす。

イリヤは逞しい体をレイの股間に割り込ませた。

「っやめっ」

突然の出来事にレイは狼狽える。

綺麗に手入れされた髪と同じ赤毛の叢は蜜を湛え、その色を濃くしていた。溢れ出た蜜がソファに滴る様子をみたイリヤは笑みが浮かぶのを止められなかった。

「ああ、ちゃんと感じてくれているのですね」

「言うなっ」

レイは恥ずかしさのあまり、ソファのクッションに顔を埋めた。

「だめです。貴女の感じる顔を見ていたい」

「……っむ、あぁ」

イリヤは強引にレイの顔をつかむと唇を重ねる。イリヤが自身の唾液をレイの口に注ぎこんだ。飲みきれなかった唾液がレイの顎を伝い落ちる。

口づけにレイがぼうっとしている間にもイリヤの手はレイの秘所へと伸びていた。

大きく広げられた花びらをなぞり、隠された芽をそっとこする指にレイは声を止められず漏らしてしまう。

「ああっ!」

――何だ、この快感は?いままで自分がSEXだと思っていたものとは、何かが違う。

レイは混乱していた。自分の心の奥底まですべて暴かれてしまうような恐怖に、レイの体は無自覚に逃げ出そうとする。

けれど力強いイリヤの手はレイの体を押さえこみ、簡単には逃がしてくれない。

ためらいもなく花びらに口を寄せ、ゆっくりとその襞を舐められる感触にレイはどうしようもなく体に熱が溜まっていくのを感じていた。

――どうしたらいい?熱くて、頭がおかしくなりそう。

レイの瞳は潤み、今にも涙が溢れそうになっていた。

けれどイリヤはそれに気づかず、丹念に花びらを解していく。イリヤの舌が花びらをこじ開け、内部へと侵入した瞬間、レイは感極まって涙をあふれさせた。

熱が体を包み、意識が白く塗りつぶされる。

レイは自我を保っていられない恐怖に、叫びを上げた。

「ああっ、いやぁ」

頂点を極めた体からは力が抜け、レイはぐったりと体をソファに預けた。

自分の手の中で震えながら快楽の頂点へと達したレイの姿に、イリヤは陶然と見惚れる。いつも強気な表情しか見せないレイの顔に現れる様々な表情に、イリヤはますますレイに溺れた。

――このままこの腕の中に閉じ込めてしまいたい。そして私と同じくアルファに魅かれて止まない、同僚たちの目から彼女を隠してしまいたい。

そんな埒もないことを考えてしまう自分にイリヤも戸惑っていた。

これまで付き合ってきた女性に対して感じた事の無い想いに、恐怖すら覚える。それでもイリヤはその手を離す気などさらさら起きなかった。

力の抜けたレイの体を抱き上げると、ソファからベッドへと抱きかかえて移動させる。

レイが体を弛緩させ忘我の境地を彷徨っている隙に、イリヤは猛りきった己に素早く避妊具をかぶせ、蕩けきったレイの蜜口を一気に貫いた。

「ああっ!」

「っくぅ」

あまりの心地よさに、イリヤは切なさを吐き出してしまいそうになる。どうにか堪えて、イリヤは快楽の波が過ぎ去るのを待った。

「っく、きついですね」

「知ら……ない」

レイは股間から湧き上がる、じりじりとした新たな感触に背筋を震わせた。

――嫌だ、私が私でなくなってしまうっ!

湧き上がる快感を振り払おうと、レイは幼子のように首を振った。

腰を抱え込まれ、深くつながったままイリヤはしばらく動かなかった。

「ファイ、離せ。嫌だっ」

「ここまできて、やめられる男はいませんよ」

イリヤはレイの腰を深く抱え直すと、腰を動かし始めた。

浅い場所を何度か探る様に、イリヤは注挿を繰り返す。

レイの内部のある場所をこすった時、レイの体がビクリと反応を返した。イリヤは精悍な顔立ちに、荒々しい笑みを浮かべた。

「ここですね」

「ああっ!」

レイの口から、思わず嬌声が漏れる。イリヤはレイの感じる部分を重点的に突きはじめた。

「やめっ、あぁ」

レイはイリヤの厚い胸板を押しやろうとするが、快感に蕩けた体には力が入らない。

「アルファ、貴女の中はすごく気持ちがいい」

「やめろ!」

「止められるわけがないでしょう」

そう言うとイリヤは一層深くレイの中を穿った。

「あぁん」

レイは脳天を突き抜ける快感に、神経が焼き切れてしまうのではないかと思う。

「ほら、また締め付けた」

イリヤの言葉に、レイは自分が制御できない体を恨めしく思った。

――どうして?オメガとの行為でこんな風に感じたことなどないのに、イリヤといったい何が違う?

びくびくとイリヤの剛直を締め付け、レイは再び快楽の頂点へと押しやられる。

「っは、ぁああ」

つま先までピンと張りつめた体がゆっくりと弛緩するのを待って、イリヤは再び動き始める。

「っや、待て……っ」

「今度は私の番です」

イリヤは激しい注挿を繰り返し、一気に昇りつめると欲望を解き放った。

「ああぁ、アルファぁ」

どくどくと続く長い放出の間、レイはただただ混乱していた。

どうしてこの男にだけ私の体は反応するのだ?

「はぁっ」

イリヤは欲望の楔を抜き取ると素早く新しい避妊具に取り換え、再びレイの中に剛直を沈めた。

「あぁっ、終わり……じゃ、ないのか?」

「まさか一度きりで、終わると思っていたのですか?」

レイは荒い呼吸を整えながら、問いかけて得られた答えに驚く。

「そんなっ!」

「まだ、余裕がありそうですね。なら私も存分に楽しませてもらいましょう」

イリヤは獰猛な笑みを浮かべた。

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