14. 煩悶

レイは局員たちの注意を引きつけた。

「Attention!」

局員は一斉にレイに向き直る。軍人らしい一糸乱れぬ動作に、レイは満足を覚えつつもこれからのことを考え、気を引き締め直した。

「本日より、監査部による査察が行われる。各員、監査部の調査には最優先で協力せよ」

「イエス、マム」

フロアのそこかしこから返答が上がる。

「では、新しい本部に相応しい働きを期待している。以上」

レイが話し終えると、局員たちは散り散りになり各自の仕事に取り掛かった。

レイも自分のデスクに向かうと本部移行に伴い山積みとなった仕事に取り掛かる。PCにはUIA本部から届いたメールが溜まっていた。

支援AIに優先順位をつけさせながら、作業を進めて行く。

処理しても一向に減る様子のない仕事にレイはため息をつく。

「インフィニティ、三時間ほどで起こしてくれ」

支援AIに仮眠をとることを告げ、レイはソファに体を沈めた。

薄いブランケットを体に巻き付け、仮眠を取ろうと体を横にする。

目を閉じると、オメガに無理矢理されたキスとイリヤとの情交が脳裏に浮かぶ。どうしてもふたりを比べてしまう。イリヤに心を許したつもりはないのに、どうしてあれほど受ける感触が異なるのか。

レイにはどうしてもふたりの違いが分からない。

付き合いで言えば幼いころから一緒に育てられたオメガとの方がよほど長い。

――こうなったらとことんイリヤに付き合ってみるか?

レイは不意に浮かんだ考えを打ち消した。

局員との職場恋愛は周囲に混乱の種を振り撒くだけということを、レイはオメガとの経験をもとに嫌というほど知っていた。

――ならばどうしてイリヤに体を許した?

――彼がすぐに飽きてくれるだろうと思ったから。

――だが、結果としてイリヤは私に執着を見せているだろう?

――想定外だ。

――そもそもこれまでの経験からSEXで快感を覚えたことなどなかったのに、どうして今頃こんな破目に。

――自分がイリヤに魅かれている自覚がないのか?

――バカな!

レイは身を預けていたソファからがばりと体を起こした。

たった今自分の胸をよぎった気持ちが信じられなかった。

――私がイリヤに魅かれていると?

「はん!ありえない」

レイは思わず口に出していた。

けれどその言葉を打ち消すように、レイの脳裏にはイリヤの姿が浮かび上がる。

途端に跳ね上がった鼓動に、レイは困惑を隠せなかった。

――お前はSection9の管理官だろう?何を動揺している。しっかりしろ!

――私はUIAのために生み出された存在だ。冷静さを欠き、判断力を失えばその存在意義を問われることになる。それでいいのか?

――両親さえわからぬ、UIAにしか必要とされない存在。それが私とオメガの境遇だ。オメガの気持ちは痛いほどよくわかるが、だからといって私に傷をなめ合う気などない。私は自分のためにこの地位に就くことを選択したのではなかったか?

イリヤに出会うまでであれば容易に答えることができた質問に、今の自分は答えることができない。

レイは頭を振っておかしな方向に走りそうになる思考を振り払う。

ブランケットを被りなおして、レイはなかなか眠りにつけないまま仮眠時間を過ごした。

 

error: Content is protected !!
タイトルとURLをコピーしました