――恋人とはどういう存在なのだろう?
レイはイリヤからの申し出に戸惑っていた。
これまでレイを求めてきた男たちは体が目当てだと思っていた。だから、レイも適当に付き合い、欲望を解消してきた。
けれどイリヤはそれまでの男たちとは違なり、体だけでなく心も求めようとする。
体験は豊富でも恋愛経験の少ないレイは、イリヤとどう向き合えばいいのか分からず戸惑いの中にいた。
うなじにかかる温かい息にくすぐったさを覚えつつ、レイが身じろぎすると頭上から声がかかる。
「もう少し、こうしていたい」
「イリヤ……、当たっているぞ」
「仕方ないでしょう? 愛しい人に触れているというのに、反応するなという方が無理というものです」
レイはイリヤの昂ぶる欲望を冷静に指摘するも、簡単にいなされてしまう。
朝の爽やかな日差しの中では、なし崩しに一夜を共にしてしまったことを恥ずかしく感じ、レイは掛布の中に潜り込む。
そんなレイを愛しげに見つめたイリヤは掛布の上から抱きしめた。
「好きです。貴女のこんな可愛い姿は誰にも見せたくない」
――恥ずかしすぎる。
レイは掛布の下で羞恥に身もだえしていた。
「レイ? 出てこないのならこちらから襲いますよ?」
イリヤの声にレイは慌てて掛布を跳ねのける。
「襲われるのは性に合わない。襲う方がいい」
宣言すると同時にレイはイリヤの上に飛び乗った。
ベッドの上をふたりの体が転がる。体勢を入れ替え、イリヤがレイを組み敷いた。
「レイ……、レイっ」
イリヤの噛みつくようなキスにレイは宥めるように舌を動かし、イリヤの舌を絡め取る。
「っは、あぁ」
イリヤの引き締まったわき腹に沿って手を這わせると、彼は体をぶるりと震わせた。
「……あぁ」
熱い吐息を吐きながらイリヤはレイの胸を揉みあげる。柔らかな膨らみは節くれだった大きな手によって形を変え、手に吸いつくような感触を返してくる。
イリヤは飽きることなくレイの胸の感触を味わい続ける。けれどそれだけでは我慢できなくなり、右手をレイの顔に這わせた。
耳をたどり、頬に触れ、ふっくらとしたピンク色の唇を無骨な指がたどっていく。イリヤの指は口の中へと侵入した。
その間もイリヤの口はレイの首筋を舐め上げ、耳朶を食んでいる。
「……っあ」
レイは強い快感に思わず目を瞑ってしまう。
「あぁ、ここが弱いんでしたね」
「……っはぁあ、あ、やぁ」
イリヤは蕩けるような笑みを浮かべつつ、少しずつレイの体に炎を灯してゆく。昨夜の熾火が燃え上がるのに時間はそうかからなかった。
蕩けきった赤毛の叢は蜜を湛えてイリヤを待ち構えている。
イリヤは口腔を犯していた指を引きぬくと、叢をかき分け秘列をなぞり始める。
「イリヤっ、もっと。足りない」
ゆっくりとしたイリヤの愛撫に焦れたレイは、催促を口にする。
けれど、イリヤは蜜壺をゆっくりとほぐすだけで、なかなか決定的な快感を与えてはくれない。
「イリヤぁ……」
普段は強気な彼女が、目じりに涙をたたえている様子はひどく扇情的だった。
「レイ、少しだけ我慢してください」
イリヤは自身の張りつめた欲望に避妊具をかぶせると、ようやくレイの求めるものをあてがった。
レイの腰を抱えあげ、片足を肩に掛けさせて深く、深く繋がっていく。
「あ、あ、あぁ」
レイの口からはひっきりなしに甘い声が飛び出す。
イリヤはすぐに果ててしまいそうになり、慌てて気を逸らす。少し落ち着いてから、腰を動かし始めた。
レイの手がイリヤの首に回される。
たったそれだけの仕草で、イリヤはレイに求められていることを実感して嬉しくなる。
「レイ、……愛しています」
深く繋がり合ったまま、イリヤはレイに口づけた。
舌を絡ませ、息が上がってしまうまでその口付けは長く続いた。
「あぁっ」
あまりの快感にイリヤは不意に欲望を放ってしまう。
「っく」
レイの内部がうねるように動き、最後の残滓まで絞り取られたイリヤの体からは力が抜けた。
「すみません。気持ち良すぎました」
イリヤはいったん勢いを失った欲望を引きぬくと、処分を済ませて再び避妊具を装着した。
「もう、いいのか?」
放出したばかりのはずの欲望は再び勢いを取り戻していた。
「貴女は、まだ満足していないでしょう? それに……」
「ああっ」
再び欲望を挿入されたレイはその質量に声を上げる。
「私もまだ満足していませんしね」
レイの腰を抱え直して、イリヤは抽送を開始する。
「はあっ、……イリヤぁ」
それまではどこか快感を押し殺すようにしていたレイは、素直に快感に身を任せているようにイリヤの目には映った。
「レイっ、レイっ!」
――私を受け入れてくれるのか? 好きだ、好きだ、私だけのものになって!
イリヤは心のままに腰を打ちつける。
縋りついてくるレイの手に、イリヤの欲望はますます煽られる。
「……っぁあああ」
イリヤの欲望が子宮の入り口にまで届き、レイは激しく乱れた。
首を振り、それでも与えられる強い快感に抗えず、快楽の頂点へと向かって体は強く張りつめる。
「いってください」
「っぁ、あ、あああぁん」
イリヤが耳元で囁くと同時に深くレイの内部を穿った。
体をびくびくと震わせ、レイは忘我の境地へと飛び立つ。レイの内部も強くイリヤを締め付け、絞り取ろうと蠢く。
「……っは、はぁ」
先ほどの放出のおかげか、少し余裕ができたイリヤはなんとか放出を堪えた。そして、すぐにそのまま腰の律動を再開する。
「あ、あぁ、やぁ、まっ……て」
快楽の階を昇り続けるレイに、ふたたび与えられた快感は限度を超えていた。
「やめっ、おかしく……なるっ」
「いいんですよ。おかしくなって。私に狂って」
妖しい笑みを浮かべたイリヤはレイを苛むことをやめない。
「ああぁ、もう……イリヤ、やめ、ゆるし……てぇ」
「レイ、れい」
――もっと私に狂え。私の存在を刻みつけて、忘れられないようにしてあげよう。
「あ、あぁー」
上擦ったレイの声を聞きながら、イリヤはようやく欲望を解放する。
レイも同時に達し、ぐったりと体を弛緩させた。
――イリヤ、こんな私でいいなら、側に居させて……くれ。
レイは心地よい温もりに包まれて、意識を飛ばした。