21. 変化

――恋人とはどういう存在なのだろう?

レイはイリヤからの申し出に戸惑っていた。

これまでレイを求めてきた男たちは体が目当てだと思っていた。だから、レイも適当に付き合い、欲望を解消してきた。

けれどイリヤはそれまでの男たちとは違なり、体だけでなく心も求めようとする。

体験は豊富でも恋愛経験の少ないレイは、イリヤとどう向き合えばいいのか分からず戸惑いの中にいた。

うなじにかかる温かい息にくすぐったさを覚えつつ、レイが身じろぎすると頭上から声がかかる。

「もう少し、こうしていたい」

「イリヤ……、当たっているぞ」

「仕方ないでしょう? 愛しい人に触れているというのに、反応するなという方が無理というものです」

レイはイリヤの昂ぶる欲望を冷静に指摘するも、簡単にいなされてしまう。

朝の爽やかな日差しの中では、なし崩しに一夜を共にしてしまったことを恥ずかしく感じ、レイは掛布の中に潜り込む。

そんなレイを愛しげに見つめたイリヤは掛布の上から抱きしめた。

「好きです。貴女のこんな可愛い姿は誰にも見せたくない」

――恥ずかしすぎる。

レイは掛布の下で羞恥に身もだえしていた。

「レイ? 出てこないのならこちらから襲いますよ?」

イリヤの声にレイは慌てて掛布を跳ねのける。

「襲われるのは性に合わない。襲う方がいい」

宣言すると同時にレイはイリヤの上に飛び乗った。

ベッドの上をふたりの体が転がる。体勢を入れ替え、イリヤがレイを組み敷いた。

「レイ……、レイっ」

イリヤの噛みつくようなキスにレイは宥めるように舌を動かし、イリヤの舌を絡め取る。

「っは、あぁ」

イリヤの引き締まったわき腹に沿って手を這わせると、彼は体をぶるりと震わせた。

「……あぁ」

熱い吐息を吐きながらイリヤはレイの胸を揉みあげる。柔らかな膨らみは節くれだった大きな手によって形を変え、手に吸いつくような感触を返してくる。

イリヤは飽きることなくレイの胸の感触を味わい続ける。けれどそれだけでは我慢できなくなり、右手をレイの顔に這わせた。

耳をたどり、頬に触れ、ふっくらとしたピンク色の唇を無骨な指がたどっていく。イリヤの指は口の中へと侵入した。

その間もイリヤの口はレイの首筋を舐め上げ、耳朶を食んでいる。

「……っあ」

レイは強い快感に思わず目を瞑ってしまう。

「あぁ、ここが弱いんでしたね」

「……っはぁあ、あ、やぁ」

イリヤは蕩けるような笑みを浮かべつつ、少しずつレイの体に炎を灯してゆく。昨夜の熾火が燃え上がるのに時間はそうかからなかった。

蕩けきった赤毛の叢は蜜を湛えてイリヤを待ち構えている。

イリヤは口腔を犯していた指を引きぬくと、叢をかき分け秘列をなぞり始める。

「イリヤっ、もっと。足りない」

ゆっくりとしたイリヤの愛撫に焦れたレイは、催促を口にする。

けれど、イリヤは蜜壺をゆっくりとほぐすだけで、なかなか決定的な快感を与えてはくれない。

「イリヤぁ……」

普段は強気な彼女が、目じりに涙をたたえている様子はひどく扇情的だった。

「レイ、少しだけ我慢してください」

イリヤは自身の張りつめた欲望に避妊具をかぶせると、ようやくレイの求めるものをあてがった。

レイの腰を抱えあげ、片足を肩に掛けさせて深く、深く繋がっていく。

「あ、あ、あぁ」

レイの口からはひっきりなしに甘い声が飛び出す。

イリヤはすぐに果ててしまいそうになり、慌てて気を逸らす。少し落ち着いてから、腰を動かし始めた。

レイの手がイリヤの首に回される。

たったそれだけの仕草で、イリヤはレイに求められていることを実感して嬉しくなる。

「レイ、……愛しています」

深く繋がり合ったまま、イリヤはレイに口づけた。

舌を絡ませ、息が上がってしまうまでその口付けは長く続いた。

「あぁっ」

あまりの快感にイリヤは不意に欲望を放ってしまう。

「っく」

レイの内部がうねるように動き、最後の残滓まで絞り取られたイリヤの体からは力が抜けた。

「すみません。気持ち良すぎました」

イリヤはいったん勢いを失った欲望を引きぬくと、処分を済ませて再び避妊具を装着した。

「もう、いいのか?」

放出したばかりのはずの欲望は再び勢いを取り戻していた。

「貴女は、まだ満足していないでしょう? それに……」

「ああっ」

再び欲望を挿入されたレイはその質量に声を上げる。

「私もまだ満足していませんしね」

レイの腰を抱え直して、イリヤは抽送を開始する。

「はあっ、……イリヤぁ」

それまではどこか快感を押し殺すようにしていたレイは、素直に快感に身を任せているようにイリヤの目には映った。

「レイっ、レイっ!」

――私を受け入れてくれるのか? 好きだ、好きだ、私だけのものになって!

イリヤは心のままに腰を打ちつける。

縋りついてくるレイの手に、イリヤの欲望はますます煽られる。

「……っぁあああ」

イリヤの欲望が子宮の入り口にまで届き、レイは激しく乱れた。

首を振り、それでも与えられる強い快感に抗えず、快楽の頂点へと向かって体は強く張りつめる。

「いってください」

「っぁ、あ、あああぁん」

イリヤが耳元で囁くと同時に深くレイの内部を穿った。

体をびくびくと震わせ、レイは忘我の境地へと飛び立つ。レイの内部も強くイリヤを締め付け、絞り取ろうと蠢く。

「……っは、はぁ」

先ほどの放出のおかげか、少し余裕ができたイリヤはなんとか放出を堪えた。そして、すぐにそのまま腰の律動を再開する。

「あ、あぁ、やぁ、まっ……て」

快楽の階を昇り続けるレイに、ふたたび与えられた快感は限度を超えていた。

「やめっ、おかしく……なるっ」

「いいんですよ。おかしくなって。私に狂って」

妖しい笑みを浮かべたイリヤはレイを苛むことをやめない。

「ああぁ、もう……イリヤ、やめ、ゆるし……てぇ」

「レイ、れい」

――もっと私に狂え。私の存在を刻みつけて、忘れられないようにしてあげよう。

「あ、あぁー」

上擦ったレイの声を聞きながら、イリヤはようやく欲望を解放する。

レイも同時に達し、ぐったりと体を弛緩させた。

――イリヤ、こんな私でいいなら、側に居させて……くれ。

レイは心地よい温もりに包まれて、意識を飛ばした。

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