10. 予期せぬ再会

「見つけた……」

ラファエルが彼女の姿を見つけたのは偶然だった。

夜会の晩、自分の心を一瞬で奪ってしまった女性の身元を突き止めるため、さまざまな場所で彼女のことを聞いて回った。けれど、黒髪に金色の瞳の女性のことを知る者はいない。

唯一の手掛かりは、招待状だった。バーリントン伯爵宛ての招待状を玄関で受け取った執事がそれらしき女性を目撃していた。

ラファエルは急いでバーリントン伯爵に問い合わせたが、当主は休暇中だと繰り返すばかりで未だ返事は得られていない。

ならばとバーリントン伯爵について調査をさせたのだが、得られた情報は恐ろしいほどわずかだった。十三年前に前の伯爵夫妻が事故で亡くなったことは報道されていたが、そのあとのことはわからない。貴族の集まりで伯爵に会ったことのある者は見つからず、王から所領をあずかる貴族として逃れられないはずの新年の挨拶さえ、バーリントン伯爵の後見人であるデヴォンシャー伯爵が務め、本人は出席していない。王に問えば教えてはもらえるだろうが、このようなささいな用事で多忙な王を煩わせるわけにはいかなかった。

完全に調査に行き詰ったラファエルは、仕事がほとんど手に着かず、別邸へ向かう。父から受け継いだ屋敷には、母が丹精をこめて育てている薔薇がある。花でも眺めながら歩けば気分転換になるかもしれないと足を向けたその場所で、彼は探し求めていた存在に出会った。

豊かな金の髪はあの日出会った女性の姿とは異なる。可愛らしい顔立ちも、妖艶な雰囲気を漂わせていたあの夜とは大きく違っていた。

それでもラファエルには彼女が|そう《・・》なのだとわかった。

再び出会えたからには逃しはしない。

微かな甘い香りに誘われるように近づけば、むせかえるような花の香りに包まれる。

(私の伴侶(もの)だ!)

彼女の腕を掴むと、予想通り逃げ出そうとする。

「名前を、教えてくれ」

「いや……」

顔を背ける彼女に苛立ちが募る。

(どうして素直にならない? 互いに求めているのは確かなはずなのに)

ラファエルは彼女が自分を求めていることを確信していた。目に見える態度こそ素っ気無いが、甘い香りがその態度を裏切っている。

「言わないのなら、ここでキスする」

彼女の金色の瞳が大きく見開かれた。あまり恋愛ごとに慣れていない様子に、ラファエルは安堵する。

「……サンドラよ」

「嘘だな」

ラファエルは竜人の直観力で、彼女の告げた名前が偽名だと確信する。

(お仕置きだと称してキスしてしまおうか……?)

顎を掴んで顔を引き寄せようとした瞬間、彼女が叫んだ。

「ダイアナよっ!」

「ダイアナ……」

名前を口にすれば、不思議と胸が熱くなる。気づけば彼女を引き寄せ、唇を重ねていた。

「っふ……ん、……あ」

往来で披露するにはいささか激しすぎる口付けだった。けれどようやく出会えたことを、身体をもって確かめずにはいられない。

強く舌を吸い上げれば、ためらいなく彼女もまた舌を絡ませてくる。

(ダイアナ……、ダイアナ!)

ラファエルは無言で彼女の身体を抱き上げた。ぐったりと預けてくる身体は驚くほど軽い。ダイアナを抱き上げたまま早足で別邸に飛び込むと、一段とばしで階段を駆け上がり、自らの寝室に彼女を連れ込んだ。

「ダイアナ、私のものにしていいか?」

キングサイズのベッドに彼女の身体を組み敷いて、耳元に囁きかける。これまでラファエルが相手にしてきた女性はたいていの場合、ここで頷いていた。

だが、ようやく見つけた伴侶はそう容易く頷いてはくれない。

「いや……よ」

きつく目を瞑り、こちらを見ないことがせめてもの抵抗らしく、顔を背けている。

「君も、わかっているはずだ。私たちが神によって定められた伴侶であると……」

唇で頬をたどり、そのまま耳元へ移動させて耳朶をそっと噛む。ダイアナは切なげに身体を震わせた。

「……そんなの、しら、……ないっ」

呼吸は荒く、目元はうっすらと上気しており、決して嫌がっているようには見えない。

「ラファエルだ。私の名を呼んでくれ」

首を横に振るダイアナに、ラファエルはさらなる愛撫を施した。首元からゆっくり手を下に動かしていく。

「さあ、呼んで」

胸のふくらみにそっと手を這わせ始めたとき、ようやくダイアナが口を開いた。

「ラファ……エ……ル」

掠れた声がラファエルの欲望を駆り立てる。

男性に触れられることに慣れていないのだろう。初々しい反応にこのまま最後まで奪ってしまいたい欲にかられたが、ラファエルは情熱を抑え、ダイアナの身体の隅々に触れていく。

「あ……あ」

たくしあげたスカートの奥に秘められた部分は、熱く湿っていた。下着をひきずり下ろすと、髪の毛と同じ金色の叢があらわになる。

「ダイアナ、綺麗だ……」

「あ……、やぁ……。な……に?」

ダイアナの足先にまで力がこめられ、欲望が張りつめていく。ラファエルがくすぐるように触れただけで、軽く絶頂に達した。

「あぁっ……!」

「イったね」

目尻に涙をためて、ぼんやりと視線をさまよわせる彼女の姿に、なんともいいがたい充足感が込み上げる。

「かわいい」

ぎゅっと抱きしめれば、熱っぽい吐息を漏らし、余韻に再び身体を震わせる。

ラファエルは彼女の同意が得られるまで身体を奪うつもりがなかった。こうして身体をとろけさせたように、心も預けてくれればいい。

伴侶を腕に抱いたラファエルは満面の笑みを浮かべた。

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