2014-10

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4. 獣人の性

ダイアナには自分の身に何が起こっているのか、わからなかった。 形の良い唇が近づき、ダイアナの目前に迫る。 これまでキスをしたことなど何度もある。ゆっくりとした動作は避けようと思えば避けられるはずだった。けれど、すみれ色の瞳に縫いとめられて、...
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3. 夜会

コンラッドの運転するファントムは、静かに大きな邸宅の車寄せ(ポーチ)に停止した。ドアマンが素早く黒塗りの車に近づき、後部座席のドアを開ける。金髪に碧眼のこれといって特徴のない男性が車を先に降り、後ろから続く女性に手を差し出してエスコートする...
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2. 若きバーリントン伯爵

ダイアナが宝飾品や絵画の紛失に気づいたのはつい一年ほど前のことだった。当然ダイアナはそれらを買い戻すように指示を出した。盗難されたものであることを知らされた人は、手に入れた品を惜しみながらも返してくれる人がほとんどだった。けれど、代々受け継...
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1. はじまり

王都オーモンドの古めかしい街並みを夜の湿った空気が包んでいる。 貴族の邸宅が立ち並ぶ居住区に、静寂を切り開いてけたたましい笛の音が鳴り響いた。大きな靴音を立てて、警官の一団が通りを走っていく。 道のところどころに配置された街灯がふたりの人影...
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42. エピローグ

葬儀の手配を終え、ナディアはぼうっと部屋に佇んでいた。 クラウディオの世話は侍女が面倒を見てくれている。 気丈に振る舞うナディアをフロレンシオが抱きしめた。 「大丈夫か?」 「ああ、……多分」 顔色の悪いナディアを見咎めたフロレンシオはナデ...
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41. 父との別れ

クラウディオはすくすくと成長し、三か月に差し掛かろうとしていた。ナディアもフロレンシオに執務を任せて、自ら母乳を与えてクラウディオの育児に専念している。 フロレンシオも執務の合間にはクラウディオの様子をしょっちゅう見に来ては、ナディアに追い...
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40. 出産

季節は冬から春へとめまぐるしく移り変わり、夏へと差し掛かろうとしていた。ナディアのお腹の子供も順調に大きくなっていた。 仲睦まじく過ごす夫婦は、臨月間近となっても一緒のベッドで休んでいた。お腹がせり出し、仰向けに眠れなくなったナディアは、横...
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39. 決着

ナディアの宣言通り、代官の悪事についての裁判が開廷した。 二人の代官と盗賊の頭が被告席に並んだ。 自分達の無実を証明しようと口を開こうとした代官は、次々と示される証拠にその口を閉じた。 「俺たちにアストーリとカザーレを通りかかる旅人を襲う様...
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38. 捕縛

「それで、フロルはどうして戻ってきたんだ?オスバルドと一緒ではなかったのか?」 「いや、……その、おいてきた」 フロレンシオはばつが悪そうに任務を放り出してきたことを告白した。 「フ~ロ~ル~。あれほど気をつけてと言ったのに~」 「とりあえ...
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37. フロレンシオの帰郷

「カザーレの街は花の栽培が主な産業なんだ。だからヴィットーレはそれを見せつけるように、いつも花から抽出した香水を振りまいている。花の匂いがする男なんてこの辺じゃあいつ位だ」 団長の言葉にフロレンシオには嫌な予感が走り抜けた。 顔色を変えたフ...
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